折れた翼は―

□標的8
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ガキィィンッ



『、っ』


「ゔおぉい、ちったぁやる様になったじゃねぇか」



外はまだ薄暗い早朝。
昨晩少し降った雨のせいか、足下の草は露に濡れている。

森に囲まれた草原で剣を交える二つの影の片方、銀髪を靡かせる長身の男は言った。










「今日は此処までだぁ」


『………ありがとうございました』


その言葉を合図にして、冷ややかに細められていた彼女の瞳に、徐々に光が戻ってくる。


『んー、やっぱり今日もスクには勝てなかったなぁ…』

「あのなぁ゛…、鍛え始めてそんなに経ってねぇ奴が何言ってやがる。この前剣を握ったばかりの奴に負けたら、それこそヴァリアー幹部の名が廃るだろーが」

『、そうだよね…!でもやっぱり一撃も入れられないのは悔しいなぁ』


身体を空に向かって伸ばしつつ、朗らかに笑ってみせる少女。

彼女の眼付きが変わる光景は何度も目にして来た筈だが、やはり普段と戦闘中の彼女が同一人物だとは考え難い、とスクアーロは内心で苦笑した。



此処は、ヴァリアー邸から然程離れない場所に位置する森の中である。

屋敷の中にはトレーニングルームも設けられているが、スクアーロと輝羅の二人は晴れた日の早朝には外で鍛錬をする事にしていた。

先日、ザンザスに得物として大剣を頂戴した彼女は、同じ剣を武器とするスクアーロに稽古を付けてやる、と半ば強制的にこの日々の鍛錬が始まったのである。


(しかし、まさかこの短期間で此処まで上達するとはなぁ…)


流石に大剣ともなると振り回す時に大きな遠心力が掛かるのか、最初はあまり派手な動きは出来なかった輝羅。

だがしかし、沢山の剣の中から自分で選んだだけあって馴染むのは早かった様で、今では一般隊士位のレベルの相手なら、優に一人で五人は相手に出来るだろう実力がついて来ていた。

これは師である自分が教えるのが上手かったから、とかいう話では無い。そこまで自分は驕っている訳でも無いし、第一、輝羅の上達のスピードは目を見張る物があった。


(確か…親に売られた先で、殺しの術も教わったんだったか…)


彼女をヴァリアーに置くに当たって、害があるかどうかを調べる為に身の上を調査した際に知った事。

それは、この歳の少女にしてはあまりにも残虐な過去で。

どうやら剣を使っていた訳では無さそうだが、幼く小さな手に銃を握らされ、その姿に油断した敵を何度も殺めて来た、というのが調査の結果だった。


自らの意思関係無く、その手を血に染めた少女。


少女は普段の自分を押し殺さなければ、その身をこの世界に堕とすことが出来なかったのだろう。


(拾われた先もマフィアの暗殺部隊だとは、皮肉なもんだよなぁ゛)


彼女はもう、一般人として生活する事は叶わない。

どれだけ光の下での生活を渇望しても、それを手に入れる事は出来ないのだ。








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