letter for you...

□22通目
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「……話は終わりか?」

「え、あ…、うん……」


引き止めたのは迷惑だったのだろうか、と少し思ったけれど、次に発せられた彼女の言葉でそれは吹き飛んだ。


「なら、彼らの所に行ってやると良い。先程から山本と獄寺の二人を待たせてるんじゃないのか?」

「そ、そうだった!ゴメン、ありがとう!じゃあまた!」

「あっ、沢田!」


駆け去ろうと背を向けた後ろから声が掛かり、歩みを止める。


「っ、こっちから連絡するから、今度はウチに来ると良い」

「え!?」

「……母もこの前私が世話になったから、礼がしたいと言っている。もし、迷惑じゃ無ければ……だg「迷惑じゃない!」


彼女の言葉が終わらない内に、俺は言葉を被せた。何故そんなに食い気味になったのか自分でも分からなくて少し戸惑うけれど、それでも思った事を口にする。


「俺、もっと田嶋さんの事、知りたいから……田嶋さんが良いなら、俺、行きたい」

「……ああ。歓迎する」


ふわり。


「っ!」


嬉しそうな、柔らかい笑みが一瞬垣間見えた。
それを見た瞬間、俺の心臓がドキドキばくばく煩い音を立てて暴れ出す。


(う、あ……っ)


全身が沸騰する様に熱を持つ。
中々笑わない彼女の見せるその表情は、とても綺麗に見えた。


「………沢田?」


黙ってしまった俺を不審に思ったのか、少し近付いて、額に伸ばされるーー


「っ!ご、ゴメン!俺、二人を待たせてるしもう行くね!」

「お、おいっ」


今度こそ駆け出して、玄関へと向かう。






(や、やばい…っ、俺、田嶋さんの事……)


もう、誤魔化しは効かない。
気付いてしまった自分の感情をどうにも出来なくて。


「あっ、ツナ!」

「十代目!そんな慌ててどうしたんですか!?」

「っはあ、はあ」


少し走って息切れしているお陰で、図らずしも赤味の帯びた顔は何とか誤魔化せた様だった。


「二人を、待たせてた、から…」

「んなの気にしなくて良いのな!」

「そうっスよ!待つってほど時間も経ってないですし」


いつも通りに掛けられる言葉が、少し俺の心を落ち着かせる。


「そっか…。でも、二人とも待っててくれてありがとう」


笑う二人に挟まれて、いつもの道を帰って行く。








優しさ。

頼もしさ。

クラスメイトは見た事の無い、俺だけが知ってる姿。

彼女の特別になれた事。



そのどれもが俺の胸をじわりと温める。

いつの間にか、俺の中の“特別”の位置には彼女が居た。


(そっか…。俺は………)








彼女が、好きなんだ。






以前は京子ちゃんが好きだったのは、思い違いでは無いだろう。

けれど京子ちゃんに対する感情は、いつの間にか憧れへと取って代わっていた。


手紙の“彼女”に対する物とも、また違う。

“彼女”が俺の良き理解者なのに対して、彼女とはもっと一緒に居たいと思うんだ。



(あ………)


頭が混乱していたから、例のノートを置いてくるのを忘れてしまった。


(………明日、朝一で置いて来よう)


仕方なく、俺は明日もまた早起きする事を決めた。






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