letter for you...

□11通目
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「ーー…えっと、そういやさっき思い出した、んだけどさ、田嶋さん、今週末は何か予定があるんじゃ無かったの?」


お茶の入ったグラスと黒い液体の入ったカップを手に、沢田がリビングへと戻って来た。その顔は湯当たりでもしたのか、若干赤味を帯びている。


「リボーンはいつもので、良かったんだよな?」

「ああ。サンキュ」


カップとソーサーをリボーンに渡し、彼はグラスを煽った。リボーンもまた、受け取ったカップに口を付けてコクリと喉を鳴らした。香りからしてコーヒーであろうそれ。普段から飲んでいる様な様子に、彼が普通の赤ん坊では無いのだろう事を改めて感じた。


「今日は予定は無かったんだ。だが、明日の予定の為に今日中に宿題を終わらせなければいけなかったからな。昨日は遊びの誘いを断らせて貰ったんだ。この家に来たのは、宿題の終わりに目処が付いていたからだよ」


リボーンから目を離し、質問してきた沢田へと顔を向ける。
もし夕方の買い物に出て居た時点で宿題が半分も終わっていない様だったら、奈々さんの夕食の誘いも断って居た事だろう。


「そっか。ゴメンね、忙しいのに俺の勉強まで見て貰って…」

「いや、その合間に私も自分の宿題を終わらせる事は出来たし、大丈夫だ。それに夕食の時も言ったが、食事を御馳走になった礼だから、沢田は気にしなくて良い」

「そ、そっか。ありがとう」


反論は許さないと若干強めに言った私の言葉に彼は苦笑しつつも頷いて、困った様に人差し指で頬を掻いた。


「何だ、薫は明日用事があるのか?」


私と沢田が話している間は静かにしていたリボーンが、唐突に口を開いた。


「ああ。明日は半年振りに父が帰って来るんだ。夕方に空港へ迎えに行く前に、ある程度料理を作っておかないといけなくてな」

「…?田嶋さんのお母さんが作るんじゃ無くて?」


疑問に思ったのだろう。沢田が首を傾げ尋ねてきた。


「勿論、私の母も料理するさ。だが、あの量を一人で作るとなると少々…」


視線を宙へ向けて、思わず遠い目をする。私の父は太っている訳では無いが、所謂、大食漢と云う奴である。いつもその身体の何処に入るのだと思う程に食べるので、父は凄く燃費が悪いのだと私は思っている。


「そ、そうなんだ…」


沢田も同じ様な人物に心当たりがあるのか、苦笑いしている。




「…半年振りに帰って来ると言ったな。薫の父親は、今何処に居るんだ?」


話を戻したのは、やはりと言うか、リボーンだった。


「……確か、今回はイタリアだとか言ってたはず」

「い、イタリア…?」


僅かに沢田の表情が引きつる。…イタリアに、何かあるのだろうか。
訝しむ様に目を向けると、彼は「あ、いや、うん、何でもない」と首を振った。


「詳しく何の仕事してるかまでは聞いてないけどね。何かの経営コンサルタントっぽい事をしてる様だ」


世界を飛び回ってする様な仕事なのかは分からないが、とは内心で付け加えた。


「す、凄そうだね…」

「まあ、実際は分からないがな」


肩をすくめて見せると、沢田も小さく笑った。





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