松風天馬に恋をする
□先輩
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先輩たちと初対面の話。
その日は部活を早く切り上げてサッカー棟にやってきた。サッカー棟ってとても大きいから近寄りがたい気がするのだけど、せっかくだから出てきた天馬を驚かせようと思って。
思っていたのだけれど…
「ん?サッカー部になにか用か?」
出てきたのはワカメ頭とピンク色の髪の先輩だった。ワカメ頭の方は確か、神童先輩だった気がする。んでピンクの人が確か霧野先輩。
『お、お疲れ様、です』
「ああ、ありがとう。用があるんじゃないのか?」
『あの、天馬を…』
「あ!キミもしかして天馬の彼女?」
霧野先輩に言われて顔が赤くなる。人に言われると恥ずかしいな。オロオロしている間にもどんどんサッカー棟から先輩方が出てきていつの間にか囲まれる形になってしまった。なんで一年が一人もでてこないの!?
「なあ、天馬と上手くいってんの」
「倉間ぁ、上手くいってなかったらここ来ないっしょ」
「付き合ったのって、天馬が抜け出した日でしょ?何ヶ月たってる?」
『あ、えと…』
「手とか繋いでる?」
なんでこんなことになってしまったんだ。質問攻めが続く。知らない人たちに囲まれるって凄く怖い。そもそも普段天馬や京ちゃん以外の男の人と関わらないからどうしたらいいのか全く分からない。ただ今思うことは、今すぐ逃げたい。輪から抜け出したい。
「先輩方、なにしてるんですか?」
ああ、救いが来た。質問の雨が一瞬にして止む。先輩たちの間から顔を覗かせた彼は私を見て目を大きくさせた。
「なまえっ!?」
そうだよ、私だよ。遅いよ。どれだけ時間かかってるの。言いたいことはたくさんあったけれど、それよりもこの輪から抜け出したくて、天馬にしがみついた。恥ずかしいとかそんなのよりもただ安心したかった。
「うっわー。先輩、女の子一人囲んでなにやってんですか」
天馬の後ろには狩屋や京ちゃん、葵ちゃんたちがいたようで、狩屋のイタズラっこのような声が聞こえた。お前、絶対に楽しんでるだろ。
「いや、ちょっと天馬の彼女がどんな子か気になって話してただけだって、な?」
「でも、なまえちゃん怖がってるじゃないですか!」
「流石にいただけないですね…」
「マネージャーも剣城もそんな怖い顔すんなよ…」
一年が完璧に先輩を押してる。普通ありえない事態に私自身が戸惑ってきた。先輩たちがここまで怒られる理由って私だよね…。なんだか申し訳なくなってくる。これは私が止めなくては。そう思って天馬から離れて大丈夫だと伝えようとしたのだが、できなかった。
天馬の手が肩に回り、優しく引き寄せられた。
そして、頭上から聞こえてきた天馬の声。
「先輩、謝ってくれます…よね?」
私には彼の顔が見えなかったのでいつもと同じ感じにしか聞こえなかったけれども、後ろからは先輩たちの息を呑む音が聞こえてきた。そして天馬の手が離れてやっと先輩たちの方に向き直ると一斉に頭を下げられ…
「ゴメンナサイ。」
『………はい』
……一体どんな顔したの天馬くん。
それは今になっても分からない。でもあの時に比べると今では普通に先輩たちと話すことができるようになったので良しとしよう。
ただ、先輩全員に「天馬を怒らせてはダメだ」と忠告を受けてしまったのはどうしようかと思った。
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