松風天馬に恋をする

□名前
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松風と付き合い始めて約一ヶ月が経った。
それなりに一緒に帰ったり、まあ、二人の時は手も繋いだりしてるのだけれど…。

最近思うことがある。


「みょうじ!待った?」

『少しだけ。部活お疲れ様』


走り寄ってくる姿に微笑む。最近はこうやって私が松風の部活が終わるまで待って一緒に帰ることが多い。家がお互い正反対の方向にあるからいい、と一回は断ったのだけれど、俺が一緒に帰りたいのと言われてしまっては、はいとしか言えなかった。待つって言っても私も部活があるのど終わって待ってもほんの数分。全く苦ではない。
松風はだいたいサッカーの話しかしてないけど、やっぱり好きな人と一緒に帰るのは友達と帰るのとは全然違う。いつでもどこでも嬉しいって感じてしまうんだ。
それで、最近思うことと言うのは。


「信介が今日も先輩のシュートを止めたんだ!」

『西園君ってすごいんだね』

「信介もキーパーとして頑張ってるし、俺、キャプテンとしてちゃんとやらなきゃって焦ってたんだけど葵や先輩たちに怒られちゃってさ」

『松風は、無理に気負わないほうがいいと思う』

「みょうじもそう思うの?先輩たちにもそう言われた」


苦笑いする松風。
さて皆さんお気づきになられたでしょうか。私が思うこと、それは付き合って一ヶ月、なのに未だに名字呼びだということ。松風は葵ちゃんや西園君は名前呼びなのに私はまだ呼んで貰ったことがない。私も私で名字呼びだから相手にはなんとも言えないけど、実は言うと少し不満。付き合う前は考えたことなかったけど、付き合うと欲張りになってしまう。名前で呼び合いたい。
だから、今日は名前で呼んでやろうと密かに意気込んでいる。
難しい顔をしていたのにいつのまにか、お決まりのなんとかなるさ!と言って満足気な顔をしている松風に声をかける。なに?と嬉しそうに笑う彼に言葉が詰まってしまった。なにこの子、可愛い過ぎる。ぱっと言えると思ってたんだけどおかしい、顔が熱くなるだけで言葉が出てこない。


『あ、の…て、』

「ん?ああ、繋ぐ?」


違うっ!
いや、嬉しいけど!
ぎゅっと握られた手に嬉しいやら恥ずかしいやら。いつもなら繋げただけで満足してしまうけど今日は違う。うわぁ、名前呼ぶのってこんな緊張するもんだっけ。さりげなーく言おうとしてたのに上手くいかない。


『て、て…』

「え、どうしたの?」

『……。』

「みょうじ?」

『…、天馬、って呼んでも…いいですか』


もう恥ずかしすぎて、名前呼ぶだけなのに。めちゃくちゃどもってしまった。相手の顔がみれなくて目線を下げる。



ふと繋いでいた手に違和感を感じた。ただ握られていただけだったものが指と指の間に彼のものが絡まり、しっかりと握られる。世間でいう恋人つなぎと云うもので、気づいた瞬間顔が更に赤くなった。


「…なまえ、」

『!』

「なんか…照れるね」


顔を上げると私ほどではないと思うけど頬を染めて笑っている…天馬。
もう私はあなたの笑顔にノックアウトしそうです。しかも名前で呼ばれた。すごい、嬉しい。顔が綻んだ。



お互いに名前で呼ぶことを慣れるのにそれから数週間かかったのはまた別のお話。







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