松風天馬に恋をする

□立ち止まる
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彼に謝らないといけない。それは分かっているのだけれど…。


『(どう切り出せばいいのっ…)』


話すのが怖い。だって嫌いって言ったあげく思い切り手を振り払ってきた。きっと松風怒ってる。てか普通そんなことされたらなんだあいつ、ってなる。最初の休み放課は緊張のあまり腹痛になってトイレに籠もった。情けない…。教室に戻ると松風が私を探していたと聞き、さらにお腹が痛くなった。気づいたら彼を避けていた。嘘、気づいたらじゃない意図的に彼を避けていた。話さないといけないってことは頭の中では分かっているんだけど、あと一歩がどうしても踏み出せなかった。こうして私はまた自分で自分の首を絞めることになるのだ。


「あれ、みょうじさんじゃん」


お昼に飲み物を買いに行ったら狩屋に遭遇した。こんにちは、と声をかけると向こうから今からお昼食べるんだけど、一緒にどう。と誘われた。私を仲間に入れてくれるのはとてもありがたいけど、今日は無理。松風と気まずいし、みんながいる前じゃ、謝れる気がしない。


『今日は遠慮しとくよ』

「…ふーん」

『な、なに?』

「天馬君となにかあったでしょ」

『!?ななななんで!』

「だってみょうじさんて、天馬君のことす…」

『わー!わー!』


私、狩屋に言ってない!なんで知ってるんだ!周りに少なからず人がいたので驚きの表情が一斉に注がれる。慌てて口を手で押さえて、それでも狩屋をきっと下から睨む。けらけら笑っている狩屋に無性に腹が立った。


「面白いね、みょうじさん」

『…ほ、ほかに知ってる人は』

「あー、少なくともウチのメンバーじゃないないよ。俺がそういう話に敏感なだけ」


コイツ、女子か。
そう思ったが口には出さないでおく。


「天馬君なんて絶対気づいてないね」


それは、嬉しいような残念のような。いやそもそも松風には空野さんがいるんだから私のこと考えるなんてこれっぽっちもあるはずがない。残念はおかしい。


「なにがあったかは聞かないであげるよ。せいぜい頑張って」


頑張るもなにもないのだが一応どーも、と言っておく。それにしてもなんで上から目線なんだ。あまり得意なタイプではないな。そう考えながらその場をあとにした。



そんなこんなで結局部活の時間になってしまった。松風にはあっていない。今はサッカー部の風景を絵にしてるのでサッカー部の見えやすい教室に画材をすべて持ってくる。今日はここでやることを部員に伝えてきたからこの前のようにはならないはずだ。

あ、松風……。
またもや目で追ってしまい、ため息を吐いた。ほんと自分で言うのもなんだけど未練たらしいなぁ。


『……あっ』


松風の顔面にボールが当たる。痛そう、大丈夫かな。て、また松風ばっかみてる。いけないいけない。絵を描かなければ。そう思って意気込むがサッカー部から大きな声があがってびっくりして筆を落としてしまった。床が汚れてしまい、拭くはめに。くそー、サッカー部のせいだ。ここまで届くほどと大声、勘弁してくれ。一体なにがあったんだ。拭き終わって再びサッカー部に目を向ける。


『(あれ……)』


松風が、いない。もしかして保健室にいったのかな。松風が見れないのは残念……ってちがーう!残念じゃないよ!ああもう、私独りでなにやってんだか。自分に悲しくなってくる。


もう松風のことを考えるのは止めよう。謝らなきゃいけないけど今は考えちゃダメだ。せめて部活終わるまで。
タタタ、と階段を駆け上がる音が聞こえてくる。珍しいな。なんか忘れ物でもしたのかな。随分急いでいる様子。


「みょうじ!」


聞こえるはずのない声。幻聴?いや、しっかりと聞こえた。恐る恐る振り返る。


扉の前には彼がいた。







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