松風天馬に恋をする
□走り出す
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なんとかなるさなんて言ったけど、不安なのには変わりない。こんな憂鬱な日は初めてだ。
朝、重たい腰を上げてベッドから起き上がる。いつもより遅く起きちゃったから今日はサッカー出来ないなぁ。こんな日こそサッカーやるべきなのに、やっちゃった。下から秋姉の声が聞こえる。うん、仕方がない。準備をしよう。
なんとかなるさ。
「いない?」
「うん。いないんだ」
学校に行き、みょうじと話すため、彼女のクラスに行った。でもみょうじはいなかった。じゃあ、次の放課にでもと思っていたが、毎時間行っても会えない。学校には来てるみたいなんだけど…。どうやら避けられているみたいだ。気づいたらお昼になっていた。事を葵に話すが狩屋が割って入ってきた。
「なに?みょうじさんのこと?」
「うん…。ていうかなんで狩屋分かったの?」
「そりゃあ、…なんとなくだよ」
「ふーん…」
でも困ったね。
狩屋の反応に違和感を抱きながらジト目をすると横から葵の声がかかる。そうだよな。会えないことにはなんにもならない。どうしようか。
「諦めたら?」
「ごめん、今そういう冗談に付き合ってる暇はない」
「天馬君こわっ」
狩屋の言葉に少しイラッ。声を低くして返事をしてしまった。でもしょうがないじゃないか。一杯一杯なんだ。こっちは勇気を持って話し合おうとしてるのに会えないとか、気が滅入りそうなんだよ。なんとか今日話したい。こういうのって先延ばしにしちゃいけない気がするし。
う〜ん。
考えて考えて、いつの間にか放課後になっていた。葵に部活行かないの?と声がかけられるまでずっとそのことばかり考えていてびっくりして叫んでしまった。
「え、もう放課後!?」
「そうだよ」
すぐに周りの視線に気づき、恥ずかしくて萎縮して椅子に座り直す。うわー、授業全く聞いてない。ノート写してない。しかも、肝心のみょうじに会えてない。こんなことって…。いや、待てよ?みょうじも部活だから美術室にでも行けば…、ダメだ、サッカー部に遅れてしまう。流石にそれはできない。ホーリーロードの最中だし、キャプテンとしてそんな理由で遅れることできない。
結局部活に来てしまった。……よかったんだろうか、これで。
ああ…、今更になってやっぱみょうじを探しに行ったほうがよかったんじゃないのかと後悔が押し寄せてくる。いや、でもサッカーも大事だし。…なんか、もう考えるのも面倒くさくなってきた。俺ってこんなキャラだっけ?
「天馬危ない!」
「…っへ、…オブッ!」
練習中、顔に飛んできたボールに反応できなくて見事にクリーンヒット。地面に倒れてしまった。周りから人が集まってきて大丈夫か?と心配そうに声をかけてくれる。以外にも手を貸してくれたのは剣城だった。ありがとう、とその手を取り立ち上がる。……ん?おかしい、剣城の手が離れないぞ。
「松風、話がある」
「いてて…、え、なに?」
「ここで聞くことではないんだが。お前、彼女出来たのか」
「……は?」
「様子がおかしいのはそのせいか」
え、ちょっと待って話についていけない。霧野先輩やその他の先輩から驚きの声が上がる。俺の方が叫びたい。
「い、いないよ!いないっ!」
「…そうなのか」
必死に手を降る。それはもう必死に。神童に連絡だの赤飯を用意するかだの好き勝手言っていた先輩達からなんだぁ、とトーンの下がった声が聞こえてくる。いやいや、そんな残念がらなくても。神童先輩もそんなこと伝えられても困るだけだし。赤飯に至っては意味が分からない。そもそも剣城はなんでそんなことを聞いたんだろう。
「なんで、そんなこと聞くの?」
「いや…、なまえが言っていたから」
「……みょうじ、が?」
心臓が止まりそうになった。だってまさかみょうじの名前が出てくるなんて思ってなかったから。
「泣いていた。…お前に嫌いって言ってしまったって」
「……っ、」
「お前は、どうするんだ」
どうするなんて、そんなの決まってる。
「先輩っ!すみません!少しだけサボります!」
「おう、頑張ってこい」
頭を下げて校舎に向かって走る。泣いてた。みょうじが。その言葉を聞いた瞬間、行くしかないと思ったんだ。会いたい、話したい。
もう、不安はなかった。
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