松風天馬に恋をする

□連れられる
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病院から帰る際、なまえを見つけた。なんか泣いてねえか、アイツ。いつもと違う様子に少し心配になって声をかけて駆け寄るとなまえは声を上げて泣き出した。おい、止めろよ。俺が泣かしたみたいになってるじゃねえか。勘弁してくれ。現に通り過ぎる人たちは皆渋い顔をしている。あー、もう。ちょっとこっち来い。そう言って泣きじゃくるなまえの手を無理やり引っ張った。






「ごめん、兄さん」

「はは、京介が二回もくるなんて驚いたよ」

「外じゃ視線に耐えられん」

「だろうね」


連れてきたのは病院。兄さんの病室になまえを突っ込んだ。取りあえず人目につかないところと思って連れてきたけど、病院に入った瞬間看護士や他の患者さんに凄い見られた。大股で素早くここまで連れてきたけど、失敗したような気がする。明日から変な視線浴びせられたらどうしてくれる。
心の中で悪態をつくが当のなまえは病室に入った瞬間、優一さぁぁん、と声を上げながら兄さんに抱きついた。兄さんも最初は目をパチクリさせていたが今じゃ優しくなまえをあやしている。
コイツが泣くなんて珍しい。昔から転んでも呆気からんとした様子で立ち上がるもんだから、つい、痛くないのか。と聞いたことがある。すると向こうからは痛いよ。なんて冷静に言うから今度は泣かないのか、と聞いた。泣くほどの痛さじゃない。とこれまた冷静に返ってきて当時、小さかった俺はコイツに涙なんてないんじゃないかと思ったりしていた。流石に飼い犬が死んだ時は泣いていたから、その考えは変わっていたけど、少なくとも俺の中のなまえはこんな声を上げて泣く奴じゃない。


しばらく泣き喚いて落ち着いたなまえは兄さんから離れて近くにあった椅子に座る。その横に椅子を置き、俺も座る。


『…お久しぶりです、優一さん』

「うん、久しぶり」

『服、ごめんなさい。』

「大丈夫だよ。それよりも、話してくれるよね?」


兄さんの言葉になまえは目線を下げた。そして小さな声で呟く。


『好きな人に嫌いって、言ってしまったんです…』


こいつの好きな奴って松風、だよな。本人から聞いたわけじゃないけど、態度とか見てるとなんとなく分かる。
で、なんだ。その松風に嫌いって言った?言われたじゃなくて?言った本人がなんで泣いてんだよ、意味わかんねぇ。
兄さんは俺の考えていることが分かったのか此方をみて人差し指を口元に当てて笑っている。黙ってろってことか。


「そう、相手はなんて言ってた?」

『…分からない。言って、そのまま逃げてきたから』

「なまえはその人のこと嫌いなの?」


ピクリとなまえの肩が揺れる。そしてまた先ほどとは違い、ゆっくりと涙を流した。


『嫌いに、なれるわけないじゃないですかっ…』

『でも、その人には彼女がいるから』

『これ以上、好きになりたくない…』


松風に彼女がいるなんて初めて聞いた。というかコイツ泣くほど松風のこと好きだったのか。正直、恋とかしたことねぇからなんで泣いてるのかよく分からない。だけど一つだけ分かったことがある。俺は、なまえの泣き顔を見たくねえ。顔がすごいとかそう言うことじゃなくて、なまえには笑っている顔が似合う。こんなの本人には言えないけど。素直にそう思った。
松風は、コイツのことどう思っているんだろうか。アイツが人を嫌うっていうのは絶対ないけど、…うん、ない。嫌いはない。嫌いはないけど人に恋愛感情を抱くのはどうだろうか。俺も大概だが、松風もサッカー命だ。俺を越えるかもしれない。
一応明日、聞いてみるか…。


「うーん、気持ちも分からなくはないけど、嫌いはいただけないなぁ」

『…分かってます』

「じゃあ、どうすればいいか。分かるね?」


兄さんの言葉になまえは小さく頷く。なんとか落ち着いたみたいだ。さすが兄さんだと思う。俺じゃこういう時どうすればいいのか分からない。ここに来てよかった。

取りあえず明日は松風に色々聞かなきゃならないな。





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