松風天馬に恋をする
□慰められる
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『松風なんて、だいっ嫌いだよ』
俺の手を振り払い走り去る彼女を追いかけることができなかった。嫌い…?みょうじは俺が、嫌い。何回も頭の中でリピートされる言葉。
…そうじゃないかな、と思うこともあった。けどまさか本当にそうだったなんて。実際に言われると、やっぱきついなぁ…。無残に振り払われた手を見つめる。さっきまでみょうじのぬくもりに触れていたそれは既に冷たくなっていた。
「お待たせ天馬!……天馬?」
葵だ。委員会終わったんだ。委員会を終えた生徒が俺の横を過ぎ去っていく。葵が来た。今も頭の中ではさっきの言葉が繰り返されている。どうしよう、どんな顔をすればいい?
「お疲れ様」
取りあえずいつものように労って、それから……どうしてた?いつも、なんて言葉をかけてたっけ。
「…てん、」
「…帰ろっか!」
ごめんね、葵。これが精一杯。俺、ちゃんと笑えてるかな。葵の顔から推測するに出来てないんだろうなぁ。
顔を背けて歩き出す。葵はなにも言わない。ただ後ろからついてくるだけ。二人の足音だけが響いていた。
気を張ってないと今にでも目に溜まっているものが流れ出てしまいそうで、なにも話すことができない。
「天馬」
葵の声。なに、と彼女の方を見ないで応えた。
なんで泣いてるの。
…泣いてなんかないよ。
今、一生懸命堪えてるんだ。泣いてなんかない。
みょうじさん、でしょ?
ピタリと足を止めてガバッと後ろに振り返る。なんで…、そう聞くと分かるよ、と笑われた。
「幼なじみだもん」
「っ!」
「話してごらん?」
優しく問いかけるから、涙腺がどうしようもないくらい緩んで涙がポタポタと零れ落ちた。よしよし、と頭を撫でられて、それが心地よくてまた涙が溢れた。
「みょうじにっ…嫌い、って……言、われ…た…!」
「……」
「覚悟、してっなかったわけ、じゃ…ない、けどっ!…苦しいっ……!」
なんで嫌われたのかも分からない。なにが悪いの。なにが君の機嫌を損ねてしまったの。分からないから余計苦しい。怖い。これ以上嫌われたくない。どうすればいい?どうすれば、キミはまた俺に笑いかけてくれる?
ふと、手に温もりを感じる。葵の手。とても暖かい。顔を上げると優しく微笑んでくれた。
「大丈夫だよ天馬」
「あお、い…」
「だいじょーぶ」
子供をあやすように何回も大丈夫と繰り返す。そんな葵に甘えてしまう。包まれていた手を一旦離して今度はこちらから包み込んだ。
「ありがとう。だいぶ、落ち着いたよ」
「私、みょうじさんが訳もなく人を嫌いになるような人には見えないなぁ」
「うん…。」
「一回ちゃんと話し合うべきだよ」
出きることなら俺だってそうしたい。でも、話してくれるだろうか。手を振り払って逃げ出すほど避けられている。なかなか答えを出せずにいると葵に背中を思い切り叩かれた。素直に痛い。
「なに迷ってるの!天馬らしくない。なんとかなるさ!」
「なるかなぁ?」
「なるよ!だって天馬だもん!」
最後の俺だからってどういうことなんだろう。でも葵に話したからか幾分かすっきりして、物事が考えられるようになってきた。そうだよね、みょうじと話してみよう。みょうじの気持ちをちゃんと聞いて受け止めたい。どんなこと言われても、なにも言われないで、嫌われているよりかはマシだ。…多分。悩んでたって仕方がない。行動あるのみだ。
「…うん!なんとかなるさ!」
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