松風天馬に恋をする

□好きになる
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好きな人がいる。


その人は剣城の幼なじみで、初めて会ったのは俺がキャプテンになる前。
なんの話しをしていたかは覚えてないけど、剣城に授業の合間に会いに行った時に会った。


『京ちゃん京ちゃん。』


京ちゃん!?
京ちゃんって剣城のことだよね?剣城をそんな風に呼ぶ人初めてで、興味本位で声がした方に顔を向けた。
第一印象は大人しそうな感じ。あと背が小さかった。葵より少し小さかったから剣城と並ぶとなんか、お兄さんと妹みたいな…、失礼かな?でも、まあ、第一印象だから。今はまた違うし。
剣城は眉を寄せて返事をしていたけど、彼女はそんなことを気にもせず言葉を続ける。


『いや、特に用はないんだけど』


その言葉に剣城の眉間のしわが深くなる。や、ヤバくないか?慌てて剣城を落ち着かせようとしたが剣城のほうが行動が早く、女の子の首ねっこを掴んで引き寄せ、俺の前に立たせた。目をまん丸にさせている女の子と間近に目が合う。俺もびっくりしてそのまま彼女を見つめた。


「俺は、コイツと話してた」

『う、うん…』


あれ?女の子の顔が赤くなっている気が…。剣城に首ねっこを捕まれているからかな。


「松風、みょうじなまえだ。」


聞き覚えのない名前にそれが目の前にいる人の名前だと気づくのに数秒要した。
みょうじなまえ。心の中で呟いて、よし、覚えた!


「俺、松風天馬!よろしくね!」

『あ、う…こんな状態で申し訳ない。よろしく』


それが出会い。
こうして次に会ったとき、挨拶から始まり、それからよく小咄をするようになった。最初は剣城と一緒にいるときだけだったけど、今では剣城いなくても話をすることが多い。
みょうじは話し方がちょっと固いけどとても面白い。話しているときに見せてくれる笑顔もとても可愛い。よく分からないけど、キュンとするというか。とにかく可愛いんだ。
もっと笑って欲しいと思う。


剣城や葵とはまた違う、別の感情を持ち始めている自覚はあった。でもこれが何なのかよく分からなくて。
胸の奥がぎゅーっと掴まれるような、苦しいんだけど嫌じゃない感じ。別にMってわけじゃないよ。サッカー部の入部テストのとき、これでもかってくらい痛めつけられて、痛かったし、嫌だったもん。だからMじゃない。

この苦しさはまた特別なものなんだ。ほんと、よく分からないけど。


よく分からないから葵に相談してみることにした。信介でもよかったけど、ほら、サッカー部って基本サッカーバカばかりだからさ。もちろん俺だってちゃんと自覚して言ってるよ。
ということでみょうじはサッカー関係ないから葵の方がいいかな、と思って。
学校の帰り、帰路を歩きながら俺の思っていることをすべて葵に打ち明ける。
葵はしばらく考えてからゆっくりと口を開いた。


「…それって、天馬はみょうじさんのこと好きなんじゃない?」

「え、そりゃあ好きだよ。話すの楽しいし」

「そうじゃなくって、女の子として」

「……うーんと?」

隣から溜め息が聞こえた。な、なんだよ!分かんないんだから仕方ないだろ!


「つまりー、手を繋ぎたいとか、抱き締めたいとか、キスしたいとか…」

「ちょ、まっ、ストップっ!」


女の子としてってそういうこと!?
確かにみょうじは小さいし可愛いから、抱き締めたらふにふにして気持ちよさそうだな、とか、思う…。笑った顔を見た時とかそういうことしたいな、と思ったことも、なくは、ない。
流石にキスまではないけど!
いや、嫌なわけじゃないよ!?むしろ嬉しいというかっ…


そこまで考えて、顔が熱くなった。葵はそんな俺の様子を横から覗いてニヤニヤしてる。
あー、もう。そんな顔で俺を見ないでくれ。
赤くなった顔を両手で必死に隠す。


「……みょうじのことが好きだ」

「みたいですねぇ〜」


中学一年の夏。

初めて恋をした。




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