オレンジデイズ

□何にも分かってない
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『文化祭?』

「うん。9月の終わりにね」


ソファーでくつろいでいるとき、不意にバン君が話しかけてきた。
バン君によると文化祭ではクラス展示で様々な喫茶店などをやるらしい。まるで高校の文化祭みたい。恐るべし。


「目玉は学校内で行われるLBX大会だよ。一般も参加可能。」

『へぇ、楽しそうだね。バン君も出るの?』

「出れない…」


え?そうなの?
と聞くとアミとカズも出れない。と答えた。
なるほど、アルテミスに出るほどの実力者だからかな。


「だから、ナノハ出ない?」

『は?無理無理無理!そんな実力ないよ!』

「やる前から諦めちゃだめだって」

『ええ〜…』


すぐ負けちゃうよ。とソファーに置かれていた枕を手に取り抱え込んで体育座りする。するとバン君に目をそらされた。


『?バン君どうしたの?』

「あー、いや、なんでもないよ」

『目ぇ逸らしたまんま言われても…』


あんなあからさまに逸らされると余計気になる。じと目で彼を見つめると、諦めたようにため息をついて、けれど視線は合わせないでポツリと呟いた。


「…短パンでその格好は、色々際どい、です」


意味を理解するのに数秒要した。
バン君は相変わらず顔を背けたまんま。私はゆっくりと両足を下ろした。


『み、見苦しい姿をお見せしました……』

「いや…」


バン君はやっと此方を見てくれた。
…なんか、確かにそのままじっと見つめられていても困るけど、これはこれでなんというか、納得いかないなぁ。
やっぱ自分に魅力がないからかなぁ。

その時、自分の中でとある疑問が浮上した。いや、でもこんなこと彼に聞いていいのかな…。引かれるかもしれないしな、どうしようかな…。


『…ねぇ、バン君』


悩んだものの結局、自分の好奇心に勝てなくて、そっと彼の名前を呼んだ。
ん?と優しい声が隣から降ってきて、逆に緊張してしまう。言え、ここまで来たら言うんだ私!


『バン君は、その、……手、出そうとしないよね』

「は」

『…あ、えっと、意味…、変な意味じゃないよ!?』


いや、でも、聞いてる時点で変か!?
うわあ、やっぱ聞かなきゃよかった!
固まっているバン君の雰囲気を感じて、とてつもない後悔に苛まれる。
どうしようどうしようと再び枕を抱えて縮こまった。


『ごめん…、やっぱ今のなし』

「……できるわけないだろ」


彼の言葉が聞こえた瞬間、肩を掴まれ押し倒された。目の前にはバン君、その後ろは天井。


「…なしとか、簡単に言うなよ」


こつんとおでこが合わさって、熱の籠もった瞳と交わる。
じわりと上がっていく体温。
やばい、心臓がはちきれそう。


「こっちだって色々耐えてるんだけど」

『は、…え?』

「もう、俺の部屋来るの禁止」

『…ええ!?急すぎて付いていけないよ!?』


今、バン君の部屋にいるわけでもないのに。しかもこの状況で。バン君はゆっくりと私の上から退いてソファーに腰掛けた。


「こんなことされて男の部屋に入ろうとするほうが、ええ!だよ」

『だって、それは、バン君だから!』

「その俺に押し倒されてたのに」

『だから!〜〜っ、バン君の分からず屋!』


私は立ち上がって枕を彼に向かって投げた。
あれ、なんかデジャヴ。
そしてそのままバン君のばーか!と捨てぜりふを残して二階に駆け上がった。
これも所々デジャヴ。もうなんでもいいよ…。

取りあえず、バン君はバカだ。何にも分かってない。部屋のベッドに倒れ込みながら一人愚痴る。


『バン君だから、いいと思ってるのに……』


呟いた言葉は誰にも聞かれることなく静寂に呑まれていった。







―――――――――――


文化祭が最早空気。

こんなつもりではなかった





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