オレンジデイズ

□触れたい。
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バン君たちの夏休みも後半に入りました。彼も受験生ということで最近はアミちゃんとカズ君と家でよく勉強している姿をよく見ます。
私も一応?高校生ということで教えることもしばしば。でもアミちゃんの方が頭良いような気がするんだよなぁ。…うん、これは敢えて心の中に留めておこう。


ある日、バイトの帰りに歩いていたらどこからか、か細い鳴き声が聞こえてきました。ほんとに小さい、聞き逃してしまいそうなほど弱々しい声で。気になってもう一度耳を澄ませて声を聞き取る。

こっちから聞こえる。

そうして声のする方に歩いて行くと一匹の真っ黒な猫を見つけました。座り込んでいるその姿は弱りきっていて、よく見ると顔が傷だらけ。とても痛々しいものだった。


『かわいそうに…』


家に連れて行きたいんだけど、真理恵さん許してくれるかな…?不安だったけどこのまま放置していくわけにも行かなくて、私は手持ちのタオルに猫を包んで連れて帰った。







『ただいま!真理恵さん!』

「はーい。お帰りなさいって…あら、その猫…」

『怪我していてっ、』

「落ち着いて。まずは病院連れて行きましょう」


私の声に今日も勉強していたのであろうバン君たちがなんだなんだと出てきて、猫を見ては顔を歪めた。





病院に連れて行って治療をしてもらって、帰ってくるとタオルが詰め込まれているダンボールが既にに用意されていた。バン君たちが用意して待っていてくれたらしい。


「助かる?」

『うん。でも顎が折れてて食べることが出来ないから流用食を流し込んで栄養を与えないといけないって』

「よかった、助かるんだね?」


安心したように頬を緩めるバン君。アミちゃんたちもよかった、と喜んでいた。ほんと、良かった。でも、栄養を与えて猫ちゃん自身に生きる気力を持ってもらわなきゃ。まだ完全に安心して言い訳じゃない。頑張ろう。


流用食を流し込む際、スポイトを喉まで押し込んで与えるので猫ちゃんが咽せるのでこっちまで苦しくなった。真理恵さんとバン君も毎日手伝ってくれて、そのおかげか数日後には歩けるようになった。

にゃあ、と体つきの割に高い鳴き声に頬が緩む。


『なあに?クロ』


部屋に入るとベッドを陣取っていたクロが扉の前まで寄ってきた。黒猫だからクロ。なんのひねりもない名前だけど、みんな賛成してくれた。
クロもクロで呼ぶとちゃんと返事をしてくれるので気に入ってくれてるのかな、なーんて。
すりすりと足にすり寄るクロの頭を撫でた。可愛いなぁ、ほんと癒される。まだ顎は折れたままで口は半開き状態だけどこれも次第に回復するだろう。もう少し頑張ろうね、クロ。そう言葉をかけると答えるように鳴き声が帰ってきて嬉しくなった。


「ナノハ」

『んー?』


クロを抱っこして和んでいると後ろからバン君の声が聞こえて返事だけ返す。すると後ろから手が伸びてきてクロを巻き込み抱きしめられた。


『は、ぁあ!?バ、バン君!?』

「んー…?」

『うぇっ、と、どう、したの』


顔を首にすりすりされてバン君の髪の毛がとてもくすぐったい。まるで、猫みたいだ。後ろから抱きしめられているという状況に身体が火照った。緊張の余りにクロを強く抱きしめてしまい、それにびっくりしてしまったクロは腕から逃げ出してしまった。


『あー!クロ!』

「…俺の相手は?」

『あ、相手!?』

「なんでそんなどもってんの?この前は自分から抱きついてきたくせに」

『うっ、あれは!』

顔を横に向けるとバン君の顔が目の前にあった。鼻が触れてしまいそうなほどの近い距離。「なに?」と微笑む彼に息が詰まってしまう。


『……ずるいよ…バン君』

「うん」

視線が絡まり、唇が重なる。いつもなら一回で終わるのに今日は違った。離れたと思ったらまた近づいてきて、びっくりして身体を引こうとしたけど後頭部に手を回され引くことができなかった。


『んっ…、』


何回も重ねられて呼吸もままならない。苦しい。けど、嫌じゃない。バン君に応えたくて服を掴む。


「っ!」

『…、バン君…?』

「…ごめん」


掴んだ瞬間、びくりと肩を揺らしてバン君は私を離した。顔を逸らされ謝られる。
…どうして謝るの?嫌じゃなかったのに。
わけが分からなくて首を傾げる。クロが戻って来るとバン君は私から離れて、クロの頭を撫でた。


「ナノハを一人じめするなよー」

『な、なに言ってるの!』

「ははっ、じゃあね」


そう言って部屋を出て行く彼。階段を下りる音を聞きながらその場に座り込んだ。
…びっくりした。だってあんなにキスされるなんて思ってなかったから。
嬉しいことに変わりはないけど、凄く、緊張した。バン君は、どうだったんだろう。服を掴んでいた手を見つめる。私はあなたに応えようとしたのに。逆に突き放されてしまった。少なからずショックだった。もしかしてバン君はこれ以上求めてないのかな。…私は日が経つごとに彼に、もっと触れたい、なんて思ってしまうんだけど。バン君はそうじゃないのかな…。不安を押し切るように首を大きく振る。クロが大丈夫?とでも言うように鳴いたので大丈夫だよ。半分自分に言い聞かせてクロの頭を撫でた。






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