オレンジデイズ

□妬くよ、俺だって
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いい?これはナノハにしかできないことよ。

キタジマの入り口で呼び止められ、一体何事かと足を止める。
至って真面目な顔をしてこちらを見つめるだけのアミに首を傾げて何?と問いかける。
私、ナノハにやって貰いたいことがあるの。
今思えばこのとき断っておけば良かった。
アミがあまりにも複雑そうな顔をして言うから私もゴクリと意味もなく喉をならす。
私にできることなら。
そう答えた私に対してのアミの反応は早かった。
ナノハならそう言ってくれると思ったわ!
顔を綻ばせてまくし立てて紡いだ言葉に、ああ、やってしまった。と、気付いた時にはすでに遅し、冒頭の言葉をとどめだとでも言うように私にとっては小悪魔だと思える笑顔で言われた。



どうしようかなぁ。

メンテナンスをするために用意された席に腰をかけながらジオラマの前でバン君と対峙してCCMを操作しているヒロ君を見つめる。


『(ヒロ君と仲良くしていて、か)』


入り口でアミちゃんに言われたことを確かめるように心の中で口ずさむ。
どうやらなかなかヒロ君に対する恋心を自覚しようとしないランちゃんに私がヒロ君と仲良くすることで自覚させてあげようという魂胆らしい。
なぜ私なんだと聞くと意気揚々と


アミ「この際、バンにもヤキモチ妬かせるのよ!」


バン君がヤキモチねぇ…。
あのバン君が、ねぇ?……あるのかな、そんなこと。
たまにSっ気見せるけど、基本的に人には優しいから。
いつもバイト終わったらマッサージやってくれるし。
だからヤキモチとか正直言うと想像できない。
ヒロ君と仲良く話していても逆に仲良くなれて良かったねなんて言われそうだ。
私的にバン君よりも問題なのがランちゃんの方だ。
最初に比べたら一段と話しやすくなったランちゃん。
ランちゃんがヒロ君のことを好きだと言うのは先ほど話を聞いていてはっきりしているのだ。
今、そんなことしたらランちゃんの機嫌をほぼ100%損ねることになるだろう。
これから起こるであろう最悪の結果を想像しながらもう一度溜め息をついた。


ヒロ「ああ!…やっぱりバンさんは強いなー」


後ろから声が聞こえてくる。どうやらバン君の勝利でバトルが終わったらしい。
重たい腰を上げてヒロ君に歩みよった。

『お疲れ様、ヒロ君』

ヒロ「え!ありがとうございます!」

『メンテナンスで教えて欲しいところがあるんだ。』


その言葉にヒロ君はあからさまに眉を下げた。
LBXのことはバン君に聞いた方がいいと思っているのだろう、私とバン君の方を交互にみて困惑している様子。
バン君はアミちゃんと話していて此方の様子に気付いていない。
…このタイミングでバン君に話しかけたのは十中八九アミの策略だと思う。


『ごめんね?ほら、ヒロ君と話す機会ってあんまないから…、お話したいなぁって思って』

ヒロ「それもそうですね!」


小首を傾げて言い募るとヒロ君は心よく了承してくれた。
ヒロ君が純粋すぎて良心が痛む。
ごめんね。こんなことに巻き込んで…。
バン君やランちゃんから少し距離をとり、席に座る。
ヒロ君は当たり前のように自身のLBXを取り出した。


『アキレスD9!』


思わず飛びついて触ってもいい?と聞くと相手は驚きながらもはい、と返事をくれた。
アキレスD9を持ち上げる。
まさか本物を見ることができるなんて、奇跡のこの瞬間を忘れないためしっかりとアキレスD9の姿を目に納めておく。


『モノホンー』

ヒロ「ナノハさん、僕のLBX知ってたんですね。バンさんから聞いたんですか?」

『えっ、あ、そ、そうなの!』


あはは、と苦笑いを浮かべる。
実はゲームやってたんでとは言えるはずもない。


それから色々な話をした。
センシマンの話しになるとヒロ君は目を輝かせて熱弁してくれた。半分以上はよく分からなかったけど時折アホ毛が犬の尻尾のように揺れているのが可愛くて此方も頬を緩めながら話を聞いた。


ヒロ「そういえば、ナノハさんは高校には行ってないんですか?」

『あー…行って、る?』

ヒロ「? そうなんですか。僕最近話の合う友達が出来たんです!」

『話の合うって、センシマンの?』

ヒロ「はい!」


学校の話になってどうも歯切れが悪くなった私に対して、ヒロ君は深く聞くことなく話を進めてくれた。単に友達のこと言いたかっただけかもしれないけど。
話の合う人が近くにいて相当嬉しいらしい。
うん、やっぱ友達って大事だよね。


『友達かぁ』

ヒロ「是非ナノハさんの友達の話も聴きたいです!」

『え?そんな大した話出来ないよ?』

ヒロ「僕だって大した話してないですよ」


それもそうかと私は頷いて口を開いた。
小学校から仲がよかった彼女のこと。
ほかにも友達がいなかったわけではないけど、やっぱり一番に頭に浮かんだのは親友の顔だった。
腕を組んでうんうん頷いてくれるヒロ君に嬉しくなって彼女のいいところを沢山話した。


ヒロ「ナノハさんはその人のこと大好きなんですね」

『うん!』


ヒロ君といると和むなぁ。
なんというかほんわかした気持ちになる。
そう思いながら微笑んでいると、不意に肩に手を置かれた。
バンさん、とヒロ君が顔を上げたので私も振り向いて顔をあげるとバン君が此方を見下ろしていた。
どことなく不機嫌そうに見えるのは私の気のせいかな。
少し固くなってどうしたの?と声を掛けると母さんにお使い頼まれた、と返事が返ってきた。
行くよ、と腕を掴まれ立たされる。突然の出来事にきょとんとしているとそのまま引っ張られた。


『ちょ、ちょっと!』

バン「アミ、用事できたから先に帰る」

アミ「分かったわ」


私の言葉を無視してアミにそう告げると早足にキタジマをあとにした。
腕を掴んだままいつもより速いペースで歩くバン君に私はどうしたものかと頭を抱えた。
てゆうか、バン君ってこんなに歩くペース速かったんだ。いつも私に合わせてくれてたのかな。
あまりの速さに足を躓きそうになる。


『バン君待って、速い』


なんとか言葉にすると彼の足がピタリと止まった。
急に止まったので私はそのまま勢い余って背中に激突してしまったがバン君は動じることなく静かに振り返った。
どうやら彼が不機嫌なのは気のせいじゃないらしい。


『…そんなにお使い嫌なの?』


私の言葉に一瞬固まったあと大げさに溜め息をつかれた。
失礼な奴だな。


「嘘だよ、お使いなんて」

『……は?嘘?』

「うん、嘘」


真顔でそう言ってのけるバン君。
私はというと開いた口が塞がらず、何故そんな嘘をついたのか理解できない。


『なんでまたそんな嘘を…』

「なんでって……」


バン君はその先を口にすることなく顔を背けた。
口元を手で覆っているため表情はよく分からないが耳をみると赤くなっている。

あれ、これは、もしかして…


『ねぇ、バン君』

「…なに」

『間違ってたらごめんね。…もしかして』


ヤキモチ、妬いてる?


その言葉を口にした瞬間、彼の赤かった耳がさらに赤くなった。まるで熟れたりんごのような赤さに此方まで顔に熱が溜まっていくのを感じる。
ま、周りに人気がなくてよかった…!


「か、格好悪い…」

『そんなことない!その、私は嬉しい、よ…?』


ただ、以外だっただけで。

頼むからそれ以上なにも言わないで、と肩に手を置かれ、懇願されたら口を閉じるしかない。
どうしよう。
こういう時、なんと声を掛けたらいいのか分からない。
私も熱を冷まそうと思って今の状況をどうすれば打破できるのか考えていると相手の方が先に口を開いた。


「あのさ…」

『な、なに?』

「この際、はっきり言わせてもらうけど」


下がっていた顔をあげて私を真っ直ぐ見つめる。


「俺、独占欲強い方だから」

『え――』

「覚悟しておいて」


そう言って顔が近づいてきたと思ったら口付けされていた。
一瞬で離れたそれに顔を真っ赤に染めるとバン君はしてやったりとでも言うように口角を上げた。


『ここ外っ!』

「誰も見てないよ」

確かに誰もいないけど…!
全く、さっきまでの恥じらいはなんだったんだ!
満足したようにニコニコしている彼に悪態をつきながら家に帰った。




―――――――――――


久しぶりに書きました。
忙しいというかほかにやりたいことが沢山あってこっちをそっちのけにしてしまってたという。


続きが読みたいと言ってくださるのがとてもありがたかったです。
一気に書く気力が戻ってきました。
本当にありがとう。

今回の話でヒロランを書きたかったのですが、尺がなかった…。
次回か番外編で書こうと思っています。







 

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