オレンジデイズ
□グッバイ初恋
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春と言うには暑いかなと思うほどの気温の中、学校が終わって友達が部活に行くのを見送ってから校門をでた。
長袖は暑いなと袖をひざ上まであげる。よし。と呟いて腕から顔を上げるとおよそ数百メートル離れた所に人影が見えた。向こうはまだ此方に気づいておらず何を考えているのか上の空で歩いている様子だったが、此方に気づくと表情を綻ばせて駆け足で走りよってきた。
ヒロ「ランさん!奇遇ですね。今帰りですか?」
ラン「まあね。ヒロも?」
ヒロ「はい」
立ち止まっているのもなんなのでと再び足を動かし始める。当たり前のように隣を歩くヒロに首を傾げた。
ラン「ヒロ、来た道戻るの?」
ヒロ「ランさんこっちなんですよね?」
ラン「そうだけど…」
それがついて来る理由にはならないだろう。その言葉が口からでる前に噤んだ。彼と一緒にいて嫌ではない。世界を救ってからも会うことはあるがそれはバンや他の人たちとキタジマでLBXして遊ぶだけでこうやって二人で会うことは今回が初めてである。
ま、たまには二人もいいかな。
ヒロ「そう言えば、聞きましたか?」
ラン「何を?」
ヒロ「バンさんのことです」
バンから何か聞いたっけ?
決して記憶力がいいとは言えない頭で記憶を探るがこれといって彼から聞かされた話が思い浮かばなかった。
ラン「いや、聞いてない」
ヒロ「え!…そ、そうですか」
此方の返答に驚いて口ごもるヒロに不信感を覚える。
ラン「なに?一体なに言われたわけ?」
ヒロ「な、なんでもないです」
キョロキョロと不自然に目線を泳がせている彼は相当嘘をつくのが苦手だ。しかも、押しに弱い。
ラン「なによー。私だけ仲間ハズレにする気?」
ヒロ「それは違います!」
急に大声を出したヒロに一瞬たじろぐがすぐに態勢を戻して負けずに言い返す。
ラン「じゃあ、教えてくれてもいいじゃん!」
そう言うと彼は諦めたように溜め息を吐いた。その姿にイラっとして口を開こうとしたがその前にヒロが口を開いた。
ヒロ「バンさん、ナノハさんと付き合い始めたみたいです」
ラン「……へ、」
その言葉の意味を理解するのに数秒要した。理解したあとにトンカチで殴られたような衝撃で動けなくなった。
ラン「…冗談?」
ヒロ「じゃないです。」
ラン「…本当なの…?」
ヒロが恐る恐る此方を見てギョッと目を開きオロオロしだした。
ポタポタと流れ落ちる涙を拭うこともしないで私はその場に立ち尽くす。
だって私、彼にまだなにも伝えていないんだよ?
初恋、だったのに、こんなのって。
ヒロ「…ランさーー。」
誰かにすがりつきたい思いだった。だからヒロにすがりついた。ヒロは突然乗っかってきた体重を支えきれなくて尻餅つく。
人通りはない。私たち二人だけだ。だから離れなかった。
ヒロ「ラン、さん?」
ラン「そんなのって、ないよぉ……」
ヒロ「……。」
ずっと憧れてて、一緒に過ごすうちに恋してるんだって知って。
でも言う勇気なくて。
それでも一緒にいたくて。
ラン「だから、ダメだったのかなぁ…」
何度かアプローチかけたつもりだったのだが、結局は後輩の位置から上に上がれることはなかった。
ずずっと鼻を啜る音が響く。勝手に借りてるだけなのだが、もう少しだけ胸を借りていようと、顔を埋める。共に戦って信用できりヒロにだからできる行為だった。
ラン「(……あれ?)」
ヒロ「…あの、ランさん。僕、今から変なこと言います。でも…最後まで聞いてください」
ラン「……ん。」
ランからヒロの顔は見えなかったが、ホッと息を吐く音は聞こえた。
ヒロ「僕、バンさんから彼女ができたって聞いたとき、正直嬉しかったんです。」
息を呑んだ。ヒロは私の気持ちを知りながら嬉しかったと言った。
私、嫌われていたのだろうか。
ヒロ「ランさんがバンさんのこと好きだって知ってました。最低ですよね。でも嬉しかったんです。だって…」
彼は一拍あけてからはっきりした口調で言い放った。
ヒロ「ランさんがバンさんのこと諦めて、僕にもチャンスが来ると思ったから。」
え、と顔を上げる。真剣な眼差しをしたヒロと至近距離で目があう。瞬間、鼓動が大きく波打った。
ヒロ「ずっとランさんのこと見てました。でも本人はバンさん一筋で、何回か嫉妬もしました。」
ラン「え、ちょ…」
ヒロ「これって人の弱ってるとこにつけ込むっていうんですかね?でも、あなたの泣いてる顔みたくないです」
微笑みながらランの頬に手を触れ、涙を掬う。いつもと違うヒロの男らしい顔に胸が締め付けられる思いがした。
…違う。私がちゃんと見てなかったんだ、ヒロのこと。
どうしよう。胸がはちきれちゃいそうなくらい痛い。
ヒロ「ランさんが好きです。僕にしてくれませんか?」
「う、あ…」と、うろたえて再び彼の胸に顔を埋めた。すごい恥ずかしい。なのに彼の中は心地よい。ヒロはそんなランの気持ちを察してか背中を優しく撫でた。
ラン「…まだ、頭ん中ぐちゃぐちゃで…分かんない、よ」
ヒロ「…ですよね。」
彼は苦笑いをする。 彼からの告白は唐突で、失恋したばっかりの今、応えてしまったらそれは彼に甘えているだけではないのか、そう考えずにはいられなかった。
私の気持ちははっきりしていない。
だから、はっきりさせないといけない。
ラン「取りあえず、けじめをつけに行こうと思う。」
ヒロ「…はい?」
ラン「ついて来てくれる?」
思い立ったらすぐ行動はランの専売特許だ。
********************
ラン「バン!!」
後ろからの呼び声にバンは振り返る。彼は驚いた顔をして立ち止まり、ランが来るのを待った。
バン「珍しいな。わざわざ電車乗ってきたのか?なんか用事?てか偶然だね」
ラン「探したんだよ!」
バン「え?そうなの?」
まさか自分を探していたとは思わなかったバンは大げさに目を開いた。そんなバンとランは改めて向かい合う。
ラン「あのね、バンに言いたいことがあって」
バン「うん?」
太陽が沈みかけてすでに薄暗く辺りには嬉しいことに人がいない。ランは思い切って叫んだ。
ラン「私、バンが好きだったの!」
その言葉にバンは固まったがすぐに微笑んだ。
バン「ありがとう。…だった。だね」
バンの言葉であ、と気がついた。
ほとんど無意識だったので此方が困惑する。
相変わらず微笑んでいるバン。
バン「ランの気持ちには気付いてたよ。だから付き合ってること言いにくかったんだ」
ラン「…ええ?!」
バン「俺、みんなが思っているほど鈍感じゃないよ」
『あれ?バン君とランちゃん?』
ランが振り返ると買い物袋をぶら下げたナノハが首を傾げている。
バンは彼女に向かって手を振った。
『あれ?声掛けない方がよかった、かな…?』
不安そうに呟いた彼女にランは首を横に振った。
ラン「ううん。もうけじめつけたから。…ふ、二人ともお似合いだから仲良くね!」
言って恥ずかしくなってその場を走りさった。
ランの後ろ姿をナノハはポカンと見つめた。
『…これは、認めてもらえたということか?』
バン「じゃない?荷物頂戴」
『お、悪いねー』
ナノハから荷物を受け取り、それから空いた方の手で彼女の手を握った。
それに慣れていないナノハは瞬間的に顔を赤らめる。バンはそれを可愛いなと思いながら、満足という風に微笑んだ。
バン「片方だけ空いてて寂しかったから」
『…さいですか』
グッバイ、初恋。
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駅前で律儀に待っているヒロにランが声をかけると、アホ毛をピコンと跳ねさせながら近寄ってきた。
ラン「待っててくれてありがとう」
ヒロ「いえ。けじめはつきましたか?」
うん、と頷くと彼は自分のことのように嬉しそうに笑っていた。
じゃあ、帰りましょうか。
彼の言葉に頷く。
ラン「返事だけどね、もうちょっと待って欲しい」
電車を待つ中、ランは静かな声で言った。
ラン「中途半端な気持ちで言いたくないんだ。ヒロにも失礼だと思うし。」
ヒロ「そうですか。」
ヒロの方を見るとまた笑っていた。その笑顔にきゅんとする。
ヒロ「僕、待ってます。ランさんが僕を見てくれるの」
ラン「…ありがとう」
ヒロ「だから覚悟してくださいね?」
ラン「……んん?」
ヒロ「僕もこれからは積極的にいくので。」
そう言うヒロの笑顔に不覚にもときめいてしまったのは言うまでもない。
ハロー、2回目の恋。
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ということで、番外編です。
1話で書ききれちゃいました。でもこの話は書いていてとても楽しかったですね!
この二人を、どうしてもくっつけたかった!ヒロランは好きです。二人とも初々しい感じが。
アミちゃんの話も書こうか迷ってます。そこは気分次第ですかね。本編も早く進めたいと思っているので。
なるべく早く更新できるよう頑張ります。
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