オレンジデイズ

□歩きだそう
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家を飛び出したのはいいが行く宛がなかった私はとにかく走った。走ったといってもまだこの世界の土地勘が乏しいわけで、遠くまで走ったつもりで行き着いたのが家の近くの公園。同じところをぐるぐる走っていたと気づいたときのショックはでかかった。


『もうこの世界にきて3ヶ月経ってるのに…』


暇があったら散歩するようにしようと小さな目標をたて、疲れた身体を休めようとブランコに跨がった。


くそー、バン君め。こうなったのも全部キミのせいだぞ。


足で軽く地を蹴るとブランコはチェーンが擦れる音を響かせながら前、後ろに揺れる。



「…ナノハ?」


名前を呼ばれたことにびっくりしながら顔をあげる。
目の前にいる人物をみて思わず頬が緩んだ。


『アミちゃん!』
「こんなとこでなにしてんのよ。危ないじゃない、バンは?」


私からしたらそれはアミちゃんにも言えることなんではないだろうかと思う。おつかいでも頼まれていたのか彼女はビニール袋を片手にぶら下げている。こんな遅い時間に一人で買い物など実に危ない。


『ちょっとね、いろいろありまして。アミちゃんは今帰るところなの?』
「うん。」
『家まで送るよ。こんな時間にかわいい子一人で帰すわけにはいきません』
「なんだろう…。ナノハが年上に見える」
『いや、年上ですよ!?』



私ってそんなに幼く見えるの?アミちゃんより4年も長く生きてるんですけど!

よし。ここで貫禄をアピールしておこう。










「バンとなにかあったんでしょう?」


ここら辺は電灯が少なく夜はとても暗い。家がたくさんあって良かったと思う。少し明るくなるから。そんな道を歩きながらのアミちゃんの何気ない言葉にえ、と声を上げた。


『な、なんで…私って分かりやすい…?』
「割と。すぐ顔にでるよね」
『マジかぁ…』


昔からそうなんだよね。悩んでると上の空になるってよく千里から言われてたし。


告白のこと、アミちゃんに言うべきなんだろうか。
うーん、と首を捻っていると彼女は此方をちらりと見ながら


「吐いちゃったほうが楽になるわよ。それに新しい答えだって見つかるかもしれない」


と言った。

…かっこいいよ、この子。

その一言に甘えて私はポツリポツリと話した。


『実は、バン君に告白されまして…』
「そう。」
『あれ?驚かないね?』
「だって(バンがナノハを好きだって)気づいてたし。」
『うぇ!ホントに?』


で、その後なにがあったの?

私はさっきのことをすべて彼女に話した。話し終わったあと、アミちゃんはふう、と息を吐いてから私をみた。


「…バカだね。」


おっしゃる通りです。改めて話して頭が冷えた。


『どうしよう。私大嫌いって言っちゃったよ…』
「そんなことでバンがナノハのこと嫌いになったら私がぶん殴るわよ」
『アミちゃん。キャラ違うから』


苦笑いしながらたしなめてると彼女は立ち止まりここが家だと告げた。


「送ってくれてありがとう」
『こちらこそ。話聞いてくれてありがとう』
「バンとちゃんと話合ってね。絶対上手くいくから」
『慰めありがとう。頑張るよ』


アミちゃんが家の中に入っていくのを見送ったあと、CCMを取り出し中をみる。


『え?着信が…』


カーソルを押し着信履歴をだす。そこにはすべて"バン君"で埋まっていた。慌てて彼に電話する。


『…もしもし?』
《…ナノハ?今どこ?》


電話越しに聞こえる彼の息づかい。
…走ってるの?
もしかして探してくれているんじゃないかと淡い期待をしてしまう。


《ナノハ?》
『…あっ、今、アミちゃん家の前で』
《そっちか…!》
『あのね、私ね、バン君のこと』
《待って。》


彼の言葉に口を閉じる。

言いたい。私の気持ち全部。聞いて欲しいよ。

うずうずが電話越しでも伝わったのかバン君は慌てたように言葉を重ねた。


《待って!電話越しじゃ嫌なんだ。今、そっちに行くから。そこ動くなよ!》


そう言って一方的に電話を切られた。


ここで待てと言われましても…。正直暗くて怖いんですよね。
バン君が今どこにいるのか分からないし、どうしよう。


『あ…、公園なら』


ここよりかはマシかもしれない。
バン君には悪いけどそちらに避難させて貰おう。



バン君、ごめんなさい。


心の中で謝りながら来た道を戻った。


歩いて数分もすると私の目的地が見えてきた。なんもない道路で待っているより少しでも明るいところのほうがやっぱり安心する。


さっきと同じようにブランコに座り、足が離れない程度に揺らした。揺りかごみたいで気持ちがいい。吹き抜ける夜風も優しく心地よい。気を緩めたら寝てしまいそう。


いけない。そんなこと考えていたら本当に眠くなってきた。
…少しくらいならいいかな。


「こらっ。こんなところで寝るなよ」
『…バ、ンく…?』
「動くなっていったのに。おまけに寝そうになってるってどうゆうこと。」
『風、気持ち良くて…』


突然(私が気づかなかっただけ)目の前に現れたバン君に私は覚醒してない頭で会話をつなげる。

あかん。半分寝とった。


「ほんと、無防備すぎ。俺じゃなかったら警察行きか家にお持ち帰りだよ」


若干乱れた呼吸を整える彼の姿はとても絵になる。


『…探してくれたの?』


ポツリと呟くと彼は少し視線をそらして手を差し出してくれた。


『(肯定と受け取っていいのかな)』


こんな些細なことでも嬉しくて。

電話で言えなかった気持ちを伝えたくて、手を通り越して彼に飛びついた。


「な、」
『好き。好きなの』
「――っ。」


いつか別れてしまうと分かってても側にいたい。
自分の気持ちに嘘をついて後悔したくないんだ。


『わがままでごめんね。


なかったことにしようだなんて言わないで』


キミの隣にいたいんだ。


首に乗せていた手を胸の近くまで持って行き相手にしがみつく。
恥ずかしくて顔まで埋めていると背中に手が回って強く抱きしめられた。


「…俺がなかったことにしようって言ったのは、フられたと思ったからで、」
『……。』
「その、気まずくなるのが嫌だったんだ。」
『…うん。』
「だから、最初からなかったことにしようとして…つまり、」


もぞもぞと顔を上げて覗き込む。

笑みを浮かべたバン君と目があう。


「俺も好きだ。付き合ってください。」


私、この世界に来れてよかった。


『――はい。』


この笑顔はいままで生きてきた中で一番嬉しくて幸せな笑顔だと思う。


「帰ろうか。母さんも心配してる」
『うん!』


差し出された手を今度は受け取ってお互い確かめ合うように握った。



手をとって、歩きだそう。



私たちの物語は始まったばかりだ。







〜an encounter〜完


―――――――――――



テストが終わってやっと書きあげることができました。

続きを楽しみにしてくれてる読者様。長らくお待たせして申し訳ありません。


二部に入る前にanother storyを書こうと思っています。まあ1、2話ですが。


報われなかったあの子をですね。書きたいなーと。


勝手にNLを作っていこうと思っているのでそこらへんご了承ください。



ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!







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