オレンジデイズ
□新学期です。
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春休みが終わって、今日は入学式。俺は3年生になるわけで少し気分を高ぶらせながら昇降口に貼られているクラス表に目を向ける。3組か。あ、アミとカズも一緒だ。ジンは2組か。隣のクラスだからすぐ話にいけるか。
教室に入るとアミとカズが寄ってきて、また同じクラスだね。と喜び合う。カズとは離れることが度々あるけど、不思議なことにアミとクラスが離れたことがない。中学校生活最後のクラスにこの二人がいてよかった。楽しい一年になりそうだ。
滞りなく入学式が終わり、教室で先生の話しを聞きながら頭の中で今日このあとの予定をたてる。
ナノハはバイトだから家にいないんだよなぁ。アミたち誘って、お昼食べてからキタジマ行こうかな。うん、そうしよう。
一人で頷くと同時に先生の号令でみんな散らばる。俺はすぐさまアミとカズに駆け寄った。
キタジマに行こう、というと二人は嬉々と頷いた。あとはジンだな。
隣の教室に行こうとカバンを肩にかけた瞬間、廊下の方から俺を呼ぶ声が教室に響いた。
振り返るとそこには新入生と思われる女の子が立っていた。律儀に教室まで入ってくることはなく、ドアのぎりぎりのところで待っている。
これは行ったほうがいいのか?とアミたちに視線を戻すと手を振られた。いってらっしゃいという意思表示だろう。
カバンを肩にかけたまんま女の子に近づいて声をかけた。
バ「今、呼んだよね?」
「は、はい!…呼びました!」
胸のところで手を組み、俺でも分かるくらい頬を紅潮させる彼女をみて、あることを直感した。
「(ファンの人か。)」
アルテミスに二回出場したことから俺はかなりの有名人となった。LBX持っている人で知らない人はまずいないだろう。一昨年はそれほどだったのに昨年大会に出てからは声かけられることが一層増えた。主に女子に。その子たちは握手を求めてきて、快く握り返すとみんな「キャー!」と叫び声をあげる。なんなんだ。握手してくださいって言われたからしてるのになんで悲鳴を上げられなきゃならないんだ。
そのことをアミに相談すると「それは悲鳴じゃなくて、喜んでいるのよ」と言われた。女の子ってよく分からない。
そんなことからこういう場面に割と慣れている。ランにも初対面で責められたし。
「あのっ、今、時間ありますか」
バ「うん。でも手早く済ませてくれると嬉しい」
「じ、じゃあ、ここでいいです」
その子は一旦話すのをやめ、呼吸を整え始めた。数回したあと大きく息をすい、俺を見て(てか、睨んでる)、思い切り頭を下げて此方に手を伸ばした。
姿勢めっちゃいい!直角90度!
伸ばされた手を見て、握手かなと俺も手を伸ばし握ろうとしたすんでのところで彼女から驚きの一言が、
「私と、――付き合ってくださいっ!」
バ「え、」
ガシ……。
バ「……え?」
ガシ?嫌な予感を胸に抱きながら目線を下に向ける。
「せ、先輩…っ!」
バ「ちょ、待っ、これは誤解…」
そこにはしっかりと彼女の手を握っている俺の手が。
「OKなんですね!?」
バ「いや!だから誤解だ!」
「だって手がっ!」
それは握手だと思ってたからだ!
そう叫びながら握っていた手を思い切り離す。
あ、これはやってしまったかもと女の子に目を向ける。そこには今にも泣き出しそうな彼女の姿があり、ぎょっと目を開いた。
バ「な、泣くことないだろ」
「だって、先輩が……」
ポロポロと涙を流す彼女にどうすればいいのか分からなくなった。幸いに教室には既に俺たちしか残っていない。こんな場面他の人に見られたら社会的に終わる。助けを求めようとアミたちのほうに目を向けたが空気を呼んだのか知らないが耳を塞いで後ろに向いている。冷や汗をたらりと垂らしている間にも彼女の鼻を啜る音が聞こえてきて俺の焦りを一層募らせた。
これ、なんの罰ゲーム?
こうなったら最終手段。はっきり言おう。
まず、落ち着かせようと彼女の頭をポンポンと叩くと、彼女の肩が小さく跳ねた。
「ごめんな、キミの気持ちには応えられない」
少ししゃがんで目線を合わせて言う。
「でも、手ぇ握ってくれた、じゃないですかぁっ…」
バ「だから、あれは握手を求められたと思ったんだ」
「……やっぱ、初対面だからですか」
バ「それもあるけど、」
「これから知っていけばいいじゃないですか!」
バ「…好きな人がいるんだ」
彼女は大きく目を開いて俺を見つめた。
「誰、ですか。」
バ「言っても分からないよ」
「ランさんですか!」
吹き出しそうになった。なんでラン!?そもそもなんでランのこと知ってるの!?
「アルテミス出てたからです。その時二人が仲むつまじく話していたって聞いて」
バ「誰から?」
「ファンクラブの人からです」
「(そんなものまで出来てたのか……)」
はあ、と溜め息をついた。そんな俺に女の子は威勢良く質問を繰り返す。
「実際のところ!どうなんですか!」
バ「別になんもないよ。いい後輩」
なんだろう。いい子なんだけど、いい子ではあるんだろうけどこの子、めんどくさいなぁ。お腹すいてきたし、アミとカズ待たせるの申し訳ないし。ジン、帰っちゃったかな。お昼誘いたかったのに。
どうやって、押し返そうか考え巡らせてると、突如、CCMが鳴り響いた。
正直助かった。ちょっとごめんね。と女の子と距離を取ってカバンからCCMを取り出して開き、画面に映る文字を追う。
¨ナノハ¨
見た瞬間、通話ボタンを押した。素早く耳に当てると直ぐに向こうから声が聞こえてきた。
《もしもーし。聞こえますかー》
第一声がそれかい。なんか気が抜けた。「聞こえてるよ」と返事をすると、興奮した声が返ってきた。
《わぁ!ホントに電話できるんだ。感動!》
バ「お前はCCMを何だと思ってたんだ」
《あれ?バン君不機嫌。なんかあった?》
バ「電話の用件は?」
《質問返しかよ。何気に傷つく》
バ「質問に答えろよ」
《お前が言うなぁ!》
盛大にツッコんできたあと、息を整える声が聞こえてきた。結局、用件はなんなんだ。
《今、学校?》
バ「そうだけど」
《お昼まだ食べてない?》
バ「うん。」
《じゃあ、ウチに食べに来ない?》
ウチというのはナノハが働いているところのことだろう。手作りうどんか。前ナノハに食べさせて貰ったけど美味しかった。お世辞とかじゃなくてホントに。アミたちも喜びそうだな。
行く、と伝えると彼女は《じゃあ、待ってるから》そう言って通話を切った。
俺はポケットにCCMをしまってから既にに耳を塞ぐのをやめ、此方を不思議そうに見つめている二人に近寄って電話の内容を伝える。それから女の子の方へ向いてはっきりと言葉を紡いだ。
バ「俺たち用事があるから。キミも気をつけて帰るんだよ?あと、俺のことは諦めて欲しい」
「そんな……っ!」
バ「それじゃ」
彼女の言葉を聞き入れないように横切る。後ろの二人は気まずそうに彼女に頭を下げながら通り抜けた。
「っ私!諦めません!絶対にあなたを振り向かせて見せます。」
彼女の言葉に思わず振り返った。なんで、なんでそんなに俺に執着するんだ。眉を寄せる俺を見ながら女の子は続けた。
「私、如月ハルカです。今はこれだけ覚えていてください!」
くるりと俺たちに背を向けて走り出す。
その後ろ姿をしばらく見つめてるとアミがおもむろに口を開いた。
ア「モテる男は大変ね」
バ「ホンット、勘弁してほしい」
カ「俺は羨ましいけどな」
バ「だまれ」
ア「くたばれ」
カ「ヒドくね?!てか、アミはなんで!?」
ああ、新学期早々面倒なことになったなぁ。
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新キャラ登場。
敬語っていいよね。だから年下好きなんだ。
なんてこと友達に言ったら引かれた。
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