オレンジデイズ
□こんな幸せでいいんでしょうか。
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『この日を待っていた!!』
「ナノハ…ここ面前だから…」
道中。落ち着いて、と飛び跳ねる私をバンはたしなめる。
バイトの疲れ?そんなのどこかに飛んでいったよ☆(キラッ
『さあ!早く行こう、バン君!』
「はいはい」
……なんて、さっきまで言ってたなぁ。
――現在。キタジマが目の前にあります。
『待って!もう入るの!?』
「逆に聞くけど、入らないの?」
『こ、心の準備がっ…』
扉に近づいていこうとするバン君のフードを掴んで引き止める。分かってるよ!入らなきゃここまで来た意味ないって!分かってるけどっ。
『AKB48の中に私が混じってしまうようなものなんだよ!?』
「A、K…??」
目がぐるんぐるんとなっている状態で力説する私にバン君は「…あー、もう!」と大きなため息をつきながら私の手をフードから引き剥がした。手を離すことなく、そのまま指を絡める。
突然のことに息を呑んだ。
「AKBやらなんやらよくわかんないけど、俺がついてるから!ナノハはいつも通りそのままでいること!」
『っう、ん』
「OK?」
『お、おけー…』
「よし。じゃあ、行くぞ」
そう言ったあと、自然に離される手。
…もうちょっと、繋いでいたかったな……。
って、なに考えてるの私!?
しどろもどろになっている私を見た彼はフワリと笑って、
「どっちが年上か、分からなくなるよな」
と言った。
ああ、そっか。彼の中で私は――、
「ナノハ?」
『――ううん。何でもないよ?』
ただの、お姉さんなんだ。
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中に入ると、そこは宝石箱でした。
なんてよくいいますよね。そんなのあるか!って思っていたけど実際あるもんですね。いやはやびっくりしました。
「バンさん!遅いですよ!」
「え?バン!?やっときた!!」
こちらに気づいたヒロ君とランちゃんが嬉しそうに近寄ってきた。二人は私を見つけると首を傾げる。
「誰ですか?」
「放浪癖のある親戚。」
ねぇ、バン君。私思ったんだけど放浪癖ってなくてもいいんじゃないかな?さして問題ないと思うんだよね。
「ちがうよナノハ。寧ろそこが大事」
グッと親指を立てるバン君。相変わらず自慢げ。何故?
…とりあえず、自己紹介をすることにした。
『初めまして。天草ナノハです』
「わ、初めまして!大空ヒロです」
最初から名前は知ってるけど一応……ね。
手を差し出すと快く握りかえしてくれた。すぐに離して次はランちゃんに差し出すと彼女は私の名前を何回か呟いてから強気な笑みで私の手を握った。
『い゛ッ!?』
「花咲ランだよ!私、負けないから!」
『お、おう?』
勢いよく離された手をもう片方の手で握り、するするとさする。結構力強かった!負けないってなにに!?
働かない頭で考えを巡らせるが答えがでるはずもなく、バン君に目を向けたところで私の動きが止まった。
「ねぇバン!バトルしよ!」
「ああ、望むところだ!」
「僕だってやりたいです!」
「順番な?」
「ヒロ!私が最初なんだからねっ」
会話自体は全然いい。思った通りの中のよさ。それよりも気になったのが微かに頬を染めながらバン君と楽しそうに話しているランちゃんの姿だった。無意識の内に手に力が入る。ズキズキと胸が痛い。目を背けたいのに身体がいうこと効かない。
その時、後ろから肩を叩かれた。びくりと肩を揺らしてから振り返る。そこには心配そうに私を見るアミちゃんの姿があった。
「ナノハ?大丈夫?」
なかなか動かない私を心配してくれたのだろう。私は大丈夫と答えようとしたのに、弱々しく彼女の名前を呟くだけだった。アミちゃんは私の異変に気付き、バン君たちと私を交互に見てから私の手を引いた。
「バン!ちょっとナノハと一緒に飲み物買ってくるわ!」
「え?ちょ…」
すでにバトルを始めていたバン君はアミちゃんを止めようとしたが、彼女は気にすることなく私の手を引いたまま店をでた。
少し歩いたところでアミちゃんはおもむろにCCMを取り出し、素早くメールを打って相手に送信する。その様子をおとなしく見ていた私に彼女は微笑むと「じゃあ、行きましょうか」と目の前の店を指差す。
『え?ここ、カフェ…』
「どうせなら、美味しいもの飲みながらお話しようかなって」
『でも、キタジマで』
「さっき、メール送っておいたから大丈夫よ」
あ、さっき送ったメールはそれか。
一人納得しているとアミちゃんが店に入っていったので、慌ててあとに続いた。
「で、どうしたの?」
『な、なにが…?』
無難にカプチーノを2つ頼んで笑顔で離れて行く定員さんを見送ってからのアミちゃんのこの発言。ついていけないよ。
「バンとなにかあったの?」
『ち、ちがうちがう!あれは私が勝手に…』
そこで言葉につまる。今、私なんて言おうとした?
浮かび上がった四文字に動揺を覚える。
しばらく固まっているとカプチーノが運ばれてきた。机に置かれて定員さんが去っていくと大きく息をはいた。アミちゃんはなにを言うでもなく私の言葉を待っている。…折れました。
『…私にとって、バン君は弟みたいなものだったの』
「うん」
『でも、一緒に過ごしていくうちに…少しいじわるだけど、それ以上に優しい彼が私、』
「……」
『す…好きに、なっていて…っ』
好き。その言葉を口にした瞬間、溢れた。涙が一粒、一粒とこぼれ落ちる。
『でも、彼にとって私はただの親戚で、お姉さんで、叶わないこの恋がとても辛い。だから、この想いはずっと心の奥にしまっておこうと思ったのに…』
「…どうして、叶わないって決めつけるの?」
『だって、私は』
この世界の人間じゃないから。いつか居なくなってしまうから。そう言いたかったが口を閉じた。
なにも言わない私にアミちゃんは小さく溜め息をついて再びCCMを取り出して、どこかへメールを送った。
『どこに送ったの?』
「ちょっとカマかけてみた」
『???』
「私は、好きでいいと思う。」
『え?』
「恋はね、どんな障害があっても止まらないものなの」
もう、そうでしょ?とアミちゃんは私に笑いかける。
『…うん。』
私はバン君が好き。言葉にしてしまった今、もうごまかせない。
「だから、ナノハはその想いに胸を張りなさい」
そうだね。例えバン君がランちゃんや他の人が好きでも私は元の世界に帰るその時まで彼を想い続けよう。もう、迷いはなかった。
『ありがとう、アミちゃん。話せてスッキリした!』
私が笑っていうとアミちゃんも笑顔で答えてくれた。
店を出ると思いがけないことが。
「ナノハ!」
『え、バン君!?』
走り寄ってくるバン君に驚いて身体が固まる。嬉しいけど、なんで?
「遅いじゃない」
「アミがあんなメール送るからだろ」
「いい収穫があったわ。ごちそうさま」
「うるさい。俺たちこのまま帰るけどアミはキタジマ行けよ。カズが待ってるから」
なんだこの会話。全くついていけん。私が理解しないまま話がまとまったのかアミちゃんはキタジマに歩いていった。それを見送って私たちも歩き出す。
『…ああ!』
「うるさい」
『結局、ヒロ君とランちゃんとしか話してない!』
ジン達がいたのに完全に空気だった。申し訳ない!
「……」
『な、なに?』
じっとこちらを見つめてくるバン君にドキリとする。しかし、彼は「なんでもない」とすぐに顔を逸らした。
「また、みんなで集まるから」
『マジすか!楽しみだなぁ』
「一人じゃはいれなかった人がよくいう」
『ぐっ…』
コイツ、人の傷口抉りやがった。話をかえよう。
「そういえば、アミちゃんはなんてメールを送ったの?」
びくりとバン君の肩があがる。え?なにその反応。
「…教えない」
『なんで!』
「なんでも」
こういう時、バン君の口は固い。前回のやり取りでそれを理解していた。
気付いたら家についていた。メールについては気になるけど、まあいいや。また今度聞けばいいし。そう思いながらバン君と一緒に家に入った。
《今、近くのカフェにいます。彼女のこと大事に思ってるなら来なさい》
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アミ様はこういう駆け引き上手そう(^w^)
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