オレンジデイズ
□好きなのは?
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はい、というわけで山野宅で居候することになりました。ナノハです。
ちなみにバン君は学校に行きました。淳一朗さんは仕事に行きました。だから今は真理恵さんと二人きりです。
「でもよかったわ。お父さんがいるときで」
『?淳一朗さんがですか?』
「ええ、あの人、ナノハちゃん知ってると思うけど研究が忙しくてなかなか帰って来れないのよ」
皿洗いを手伝いながらなるほど。と頷く。
「さすがに主人なしで話しまとめる訳にはいかないし、本当にラッキーだったわ」
嬉しそうに微笑む真理恵さんに私も微笑んだ。
お皿洗いが終わって一息つくと真理恵さんは思い出したように手を合わせた。
「そうだ!ナノハちゃんの服買いに行かないと!」
『…えぇ?なんか悪いですよ』
「悪くなんかないわ、だってナノハちゃんはもう家族なのよ?」
当たり前のように言ってのける真理恵さん。家族、その言葉がとても嬉しくて、無意識に呟いた。…待てよ?じゃあ、バン君は私の弟と言うことになる。なんておいしいポジション!
『家族っていいですね!!』
「でしょう?だから、服を買いに行きましょう」
『それはまた別の話しです!』
えー、と口を尖らせる真理恵さん。何この人、可愛い。
結局、なかなか頷かない私に真理恵さんは後々アルバイトかなにかをして貰い、少しずつお金を返すという提案をし、話はまとまった。
午後5時。
バン君帰宅。
真理恵さんに買って貰った服を着て、玄関で出迎えます。
「ただいま〜」
『おかえりなさ〜い』
私を見たバン君は訝しげに目を細めながらもすぐに思い出したようにああ、と呟いた。
『あれ?今忘れてたよね?私の存在消されてたよね?』
「大丈夫。すぐ思い出したから問題ないよ」
『私のハートが抉られたよ』
「ご愁傷様。」
『…バン君ってSなの?』
ゲームとはだいぶイメージが違うぞ?と首を傾げているとバン君が困ったように中に入りたいんだけど…。と言ってきた。そこで今の状況を理解する。私が邪魔で上がれないのか!
『どうぞどうぞ』
「ありがとう、ございます?」
横に逸れるとバン君はぎこちない感じで靴を脱いで足を踏み入れた。
夕食時、バン君と私が隣、真理恵さんがバン君のお向かいに座った。
そこに淳一朗さんの姿はない。
「ねぇ、母さん」
茶碗を持ちながら目の前にいる真理恵さんに話しかけるバン君。
「俺…この人とどう接すればいいのか分からないないんだけど」
この人とは、私のことだろうか?てか、本人の前でよく堂々と言えるな。まあ、いいけど。
私は真理恵さんが応えるより早くバン君の方を向いて、声を出した。
『私はバン君のお姉ちゃんだよ!』
「…は?」
バン君は真理恵さんをみて「冗談でしょ?」と呟く。
「本当よ〜」
「えー…」
『本当に失礼だな。』
「自分に正直なんです」
『なるほど。…じゃなくて!何が不満?』
「朝寝てるときにぽっぺつまむところ」
『痛かったの?思ったより痛かったんだね?』
痛かった、と頬をさするバン君。これは、謝ったほうがいいのか?オロオロしてると真理恵さんが吹き出した。笑う要素どこにもなかったよね?
「二人とも、仲良くやっていけそうね」
失礼ながら私にはどこが仲良くやっていけそうに見えたのか分かりません。それよかバン君ってホントにこんなキャラなの?真理恵さんも何も言わないし、普段こんな刺々しいの?私びっくりだよ。あの優しいLBXバカはどこへいった。健全なのは色気とその素敵な生足だけか?
「なんか今失礼なこと考えていただろ」
『はて?何のことやら。それよりバン君。私、バン君の部屋行きたい』
「あら、大胆発言」と口元を抑えながらにやついている真理恵さんはこの際ほっておこう。バン君を見ているとそれはもう嫌そうな顔で、私としてはちょっぴり傷ついた。
そこまで嫌そうな顔しなくてもいいじゃん。
「バンもついに大人の階段を上るのね」
「俺、この人とだけは勘弁」
『ちげーよ!LBX!LBXが見たいの!!』
なんだ、それならいいよ。とため息をつきながら言ってのけるバン君に本気でアッパーかましてやろうかと思った。静まれ私の右手。この技を使うにはまだ早い。
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どうぞ、と手招きながらナノハを部屋に迎える。彼女は部屋に入ったとたん瞳を輝かせ真っ先にベッドの下を覗いた。
「なにしてるの?」
『ない!』
「…一応聞くけど、何が」
『エロ本!!』
平然と叫ぶ彼女に頭を抱えた。この人には恥じらいというものがないのだろうか。
バン君は思春期だからエロ本ぐらいあると思ってたんだけどなー。と口元に手をあて独り言をぶつぶつ言っている彼女の頭をコツンと叩いた。
『いてッ』
「LBX見たいって言うのは口実?」
『まさか!本命はそっち』
ベットに腰掛け、笑顔で隣をポンポンと叩く。座れ、と。「これ、俺のベットだよ」と悪態をつきながらもなんだかんだいって大人しく隣に座ってしまう。なんでだろう、今朝会ったばっかりで今さっきまで戸惑っていたのに、最初からオープンなこの人にこの短時間で慣れつつあった。期待の眼差しを向ける彼女に肩にかけてあった鞄を膝の上に置き、そこからLBXを取り出した。
『オーディーンMk2!?』
「そうだよ」
『本物〜!』
コロコロ変わる彼女の表情に思わず笑みが漏れた。
「ナノハ、さん?」
『言いにくいんだったら、さんはいらない』
「じゃあナノハ。一番好きなLBXは?」
『そうだなぁ…。一番はオーディーンかな。いや、パンドラも捨てがたい』
真剣に悩むナノハ。しばらく唸ってから「やっぱりオーディーン!」と嬉しそうに言った。ということは二番はパンドラか。というか、笑顔が小学生みたいだ。とても高校生だとは思えない。
「どちらかというと妹……」
『なんか言った?』 「なんでもない。因みに三番は?」
『ジョーカー!!』
即 答。
どうやら彼女の中でジョーカーは三番にインプットされているらしい。ほんとに一寸の迷いも感じられなかった。ナノハは「あ、でもね…」と付け足すように俺に笑顔を向けた。
『バン君の使っていたLBXは全部一番かな』
ナノハの発言に息を呑んだ。数秒の間、お互いに見つめ合う。次第に体温が上がっていくのを感じった。
『照れてる?』
「や、ちがうから。…ちょっとナノハ、こっち見ないで」
『やだ。むしろずっと見ていたい』
「それはキモい。」
『ひど!?』
しょぼくれる彼女をみて熱を下げる。彼女の発言に少しびっくりした。ただ、それだけ。
トクントクン、といつもより早く鳴り響く鼓動を抑えつけた――。
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