短編小説

□青に広がる一つの赤
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「俺、行きたいとこあんねんけど」



12月31日、現在時刻午後10時。今年も残すところあと2時間というところで唐突にユウジの言った一言。



「今から?」
「おん」
「嫌だよ、寒いもん」
「どうしても行きたいねん、一生のお願い!」
「一生のお願いって、それ何回目だよ」
「俺は生まれ変わっても必ずお前と居ることが決まってるっちゅーことや」
「黙れこのやろう」



そもそも私は最初っから夜中に出発して初詣に行きたい派だった訳で、それを「外とか人多いし、寒いだけやん」と言って断固拒否していたのはユウジのほうで、だったら今年はお家でまったりと年を越そう、ということになったのに。急に出掛けようなんて言いだすもんだから私の気分が乗るはずもなくユウジの話を聞き流しながら、ダラーっと後ろのソファーにもたれかかっていた。



「なんで今さら?私もう出掛けるモードオフだよ」
「ほな俺がスイッチ押したるわ」
「結構です」
「死なすど!」
「きゃーユウジくんこわーい」
「ええから、さっさと準備せんと置いてくで」
「それでお願いします」
「なんでやねん!」



自分から「置いてくで!」なんて言っておいて私がそれを受け入れたら受け入れたで「俺が寂しいやん!」と言ってだだをこねるユウジを温かい目で見守りながら、しかたない…と重い腰を起して私は渋々と出掛ける準備を整えた。





***





「…お前、それ巻きすぎやろ」
「だって寒いもん」
「でも」
「だって寒いもん」
「…まあええけど」



現在時刻午後11時30分。準備を終えると「歩いていける場所やから」といって先を歩くユウジを追ってたどり着いたのは地元の人しか来ないような小さな神社で、それでもその時ばかりは大きな神社ほどではないにしても多くの人でにぎわっていた。



「え、こんなところに神社あったんだ」
「知らんかったやろ」
「うん、知らなかった」
「せやろ」
「嬉しい、ありがとう」
「…俺な、」
「ん?何?」
「車の渋滞とか、人ごみの中歩くとか、ほんまにあかんねん」
「知ってる」
「…でもな、お前の願いは出来るだけ叶えてあげたいねん」
「え、」
「っ、なんでもないわボケェ!これで満足か!」
「…ユウジってさ、ほんと素直じゃないよね」
「う、うっさいわボケ!死なすど!」
「来年も、一緒にいようね」
「…当たり前や」



まさか、外に出るのが嫌だと言っていたユウジが。私のために神社に連れてきてくれたのだと思うと本当に嬉しくて、それだけでなんだか満足してしまいそうなくらい。
「絶対、離さへんからな」と呟いて、そっと私の冷たい頬に落としたユウジの唇は、外の気温と反比例してすごく暖かくて、来年も再来年もずっとユウジといれますように、そう願わずにはいられないほどに私を幸せな気分にしてくれた。






Happy new year !




青に広がる一つの赤





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(2010.12.31)











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