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□ねえ、罪深いのは
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どこぞの2年エースみたいだ、大きく見開かれた瞳は真っ赤に染まっている。テニス部レギュラーで体力のある彼がゼーゼーと肩で息をして。どす!お腹に重い衝撃を感じて目の前にある彼の顔がぐらりと揺れる。そのまま閉じそうになった瞳をこじ開けるように、今度は頬に乾いた衝撃がじわりじわりと痛んでヒリヒリと痺れを残す。同時に彼の大きな掌は頬だけじゃなく耳や唇にも痛みを落としていったようで、耳鳴りはするし口端から鉄のような生臭さの僅かな血の味。



「腹立つねん、お前」


がしゃん!彼は素手で窓を割る。私の口端からチロリと漏れた血なんかとは比べ物にならないほどの量の鮮血がダラダラと彼の腕を伝って落ちる。その赤く染まった手で割れた窓ガラスの破片を1つ手にして、切れ味を確かめるように彼は自分の逆の腕にガラスの破片を滑らせた。ぷく、ぐっと切り込んだ傷口から赤い血が浮き上がる。ツー、彼が自ら滑らすガラスの破片の後を追うように赤い線が描かれていく。たらり、赤い血の線が幾つもに別れ腕を伝い広がって流れる。



「ホンマむかつくわ」


そして彼はゆらゆらと不安定な歩き方で私の方へ近づいてくる。手に持ったガラスの破片を私の頬に当て、さっき自身の腕にしたのと同じようにぐっと刃を立てそのまま口元の方にスーと引っ張っていく。じりじりとした痛みとそれを追うように生温い血が顔を伝う感覚がしたのはほぼ同時だった。



「イラつく」


ガラスの破片を放り投げると今度はそのへんのコンセントに繋がっていたコードを抜き取って手に持ち私の首に回し、吐き捨てるように彼は笑う。間髪入れずに肩を強く押されて私はそのまま部屋の床に背中を打って倒れた。



「なんでや、なんでお前は」


私に馬乗りになった彼が、私の首に巻いたコードを持つ手に力を込めた。ぐぐぐ、コードが擦れる音がする。重なるコードの隙間に少しだけ挟まった首の皮膚を痛いと思ったのは一瞬だけで、次の瞬間にはすぐに圧迫される息苦しさが私を支配した。酸素を求めて無意識に開いた唇から「あ、ぐ、う、っ」と短く息に近い呻き声が漏れる。



「なんで俺を見ぃひんのや」


見開かれた赤い瞳からポタポタと落ちてくる彼の涙が、彼の下敷きになっている私の顔に降ってくる。無意識に開いていた私の口内に入ってきた彼の涙は酷くしょっぱかった。



「ユ、ウ 、っジ」


そして私が吐息と一緒に吐き出す言葉に、その場の総てがピタリと止まる。そうなった今ようやく私が泣きたくなったのはきっとその静寂のせい。






「 それは、恋だよ 」



――ぴたり、止まったのは

彼の手と彼の力と彼の涙


 それから――、





「ごめんね お兄ちゃん」

   わたしの、しんぞう


愛し方を知らなかった彼と、兄である彼を愛せなかった私。ねえ、罪深いのはどっちなのかな








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たすく様から頂き物!
これまたキリリクで書いてもらいますた!
もうね、狂・グロはたすくの専売特許だと思う←
切なすぎてやばいっすわ・・・(´;ω;`)
本当にありがとうございました!
虚空(たすく様)







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