二次創作
□過去作A
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「やれやれ、家の外も内も雨降りか」
ふ、と笑う男の声で再び意識が戻される。間宮さんは興醒めだというような薄い笑いを浮かべて私を見下ろしていた。
「君、ひどい顔だな」
涙でぐしゃぐしゃになった顔を、慌てて両手で覆う。乱れた呼吸はなかなか整わないが、少し気持ちは落ち着いたように思えた。
「…すみません」
「変な奴だな。謝ってばかりだ」
「…今日はお戻りにならないと伺っていました」
「俺が自宅にいつ戻ろうが、そんなことは俺の勝手だろう?」
「ええ、もちろんその通りですが…」
乱れた服を掻き合わせるようにして体勢を整えている私に、既に興味など無くしたような間宮さんの視線が絡んだ。
「こんな暴行紛いのことをされてでも、本当に俺と結婚するの?」
「…間宮さんが嫌だというのなら、無理にお願いするつもりはありません。ただ、私にはもう選べる道は限られていますから…」
退路は断たれている。だがここで間宮さんに婚姻の破棄をつきつけられたとしても、私は食い下がるつもりはない。
その時は母の残してくれた僅かばかりのお金で生活せざるを得ない。
「やたら言葉尻を濁すんだな。君みたいな人間はそうウジウジしているから他人から良いように扱われるんだ」
苛立たしげに呟かれた言葉に、剥き出しの悪意を感じる。
「ああ、でも体の方は素直に反応してたみたいだけどね」
カッと顔が熱くなった。更に追い打ちを掛けるように熱くなった耳元に顔を寄せられる。
「俺は嫌だとは言わないよ。周りからうるさく結婚しろだの恋愛しろだの言われるのにはウンザリしているし、適当に相手を見繕うにも調度良い女がいないし」
呟かれる言葉の意味とは裏腹に、艶やかに生温かい吐息混じりで囁かれると、ただでさえ熱い頬が余計に熱を増した。
「わ、私も嫌だとは言いません。結婚するからには、間宮さんを支えていけるように努力します」
「別に俺には関わらなくても良いけどね。お互い持ちつ持たれつ、せいぜい利用し合おうじゃないか」
耳を甘噛みされ、体が再び反応する。身を硬くしていると、覆っていた男の体がさっと離れた。
「君のその間抜けで浅墓な決意も聞けたことだし、俺は仕事に戻るよ。元々忘れ物を取りに帰っただけなんだ」
ドアへ向かいながら振り返ることなく事務的に掛けられた言葉に、私は安堵した。
「そうですか……行ってらっしゃい」
何と言うか迷って一言呟くと、感情の全くない声色でああ、とだけ返事があった。
ドアの閉まる音を聞いて、熱のこもった頬に手を当てた。熱の原因は恋慕ではなく、恐らく情欲。私はそれを、酷く浅ましく感じた。
背徳感を背に、夜の雨足は強まるばかりだった。