二次創作

□過去作A
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どれだけ眠っていただろうか。水の音で意識が戻った。雨だった。しとしとと響く雨音に意識を戻され、私は再び目を開いた。
まだ荷物も解いていなかったし、自室ですらゆっくり見ていない。時計を見ると、時刻は既に19時を回っていた。
ゆっくりと立ち上がって部屋の電気を点け、カーテンを閉めに向かう。間宮さんの家はマンションの17階にあり、窓からは雨に輝く夜景がきれいに見えた。

「女性は夜景が好きだというのは本当らしいな」

あまりにも突然声が聞こえて、私は心臓が止まるかと思った。慌てて後ろを振り向くと、スーツをしっかりと着こなした男が立っていた。私は一人だと思っていた場所に現れたもう一人の人間に恐怖で混乱した頭で声を掛けた。

「ど、どなたですか?」

「そうか、君は俺を知らないんだったな。俺は間宮亮治。君の夫だよ、よろしく」

冷たい目で見下すように私を眺めているのは、これから生活を共にする夫その人だった。私は鳴りやまない心臓に手を当てて一歩後退してしまった。

「あ、あの、伊藤、梓です。ふ、ふつつか者ですが…」

よろしくお願いします、と言おうとしたが、その先は言えなかった。間宮さんはいきなり話している最中にこちらにつかつかと歩み寄って私の顎をつかみ、グイっと力任せに上へ向かせた。
とても整った顔立ちだったが、こちらを見るその視線はとても冷たく、私は更に恐怖に縮こまった。

「震えているな。よくそんな調子で結婚なんて受けたものだな。何が目的?金か?」

言葉が出なかった。間宮さんの言葉が全く頭に入ってこず、ただ目の前がちかちかとフラッシュしているような感覚に陥る。
混乱した頭で声も出ず、そのうち視界が歪んだ。目に涙が溜まっていたのだが、それすら自分で良く分からなかった。私の顔を見た間宮さんが冷笑を浮かべたのが、ぼやけた視界に入った。

「目が潤んでいるぞ。ああ、目的は男なのかな?」

顎をつかんだ彼の手の親指が、ゆっくりと私の下唇をなぞった。空いた手は腰に回されて、そのまま背骨に沿って撫で擦られる。それでも私は動けずに、涙を湛えて間宮さんを見上げていた。
今日は帰らないと聞いていた間宮さんが何故帰っているのか、何故悪意を向けられているのか、聞こうとしても言葉にならない。

「君は口も満足に聞けないのかな?この口は、飾りなの?」

言葉はゆっくりと優しく聞こえる。でも、だけど、目が、笑っていない。そのまま、その視線に吸い寄せられるように目が離せなくなった。間宮さんの顔が近付いていることに、私は全く気がつかなかった。

「んむっ」

突然の口付けに私は更に混乱した。両手で間宮さんの胸に手を突き離れようとしたが、その手を彼の右手に絡め取られて更に深く口付けられる。大きい左手は私の後頭部をしっかりと掴み、逃げられないように固定された。怖くて相手の舌を噛もうとしたが、口内の上顎を舌で撫でられて力が抜ける。気付けば、私の息は上がって体の力が抜け切り、口の中を蹂躙されるがままになっていた。
先ほどの涙とは別の生理的な涙で視界が霞み、口の端からは唾液まで零れている。その雫を間宮さんは舌に絡めて再び口付ける。もう腕を突っぱねる力もなく、両腕は解放されたというのに彼の胸にしがみつく様にしてスーツを握っていた。

「ふっ、ぅ、ん…あ…」

言葉にならないため息のような声が甘く口から零れ、ちゅくちゅくという水音が雨音と混じり言って耳を嬲る。そのうち、スカートとブラウスの間から間宮さんの手が侵入し、直肌の背中を撫で上げた。再び私の体に緊張が駆け巡った。

「ああ、もしかしなくても処女だよね、君。今のファーストキスだったりした?」

少し乱れた息を吐きながら、それでもその瞳は全く冷たいままだ。三須さんの「優しい方」という言葉がキンキンと頭に響く。一方で警鐘がなっていた。本能で現状が危険だと分かっていたけれど、私は熱くなった吐息と恐怖に支配された頭でそこから動くことは出来なかった。
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