二次創作
□据え膳
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ああ、目に毒だ。
理性を総動員させて連勝は盛大な溜息を零した。
片手で顔面を覆い、その指の隙間から覗く惨状に頭痛を覚えた。
「…なぁによ、あんた酒きらいなわけぇ?」
「いや、一応未成年なんですけど、俺」
「あぁっはっはっは!あんた本当学生に見えないわよぉ!」
ケラケラと目の前で笑うのは、雪女の先祖がえりである野ばらである。
バンバンとテーブルを掌で大袈裟に叩いて笑っている。それに苦笑で応えてやると、もう一度自然に溜息が洩れた。
普段はあまり酷い酔い方をしない彼女が、今日は珍しく酔っているようだった。
いつも白い肌が、酒のせいか薄紅色に染まり、露出度の高めのシャツから覗く肌がやけに艶めかしく映る。
加えてやたら血色の良さそうに見える唇や、潤んだ瞳、紅潮した頬に加えて呂律の回らない口調が先ほどから連勝の理性をぐらぐらと揺さぶっていた。
「ほら、飲んでみるぅ?」
うへへへへとおっさんのように笑いはじめた野ばらが差し出したのは、先ほどから彼女が口付けていたグラスである。
「だから、俺未成年だっつの。てか、もうその辺にしときなさいって」
差し出されたグラスを彼女の手から取り上げる。
その際、細く白い指と自分の指が軽く触れて、鼓動が鋭く跳ねた。
動揺を悟られないためすぐに立ち上がって台所のシンクにグラスを持って行く。
「もぉ、つまらない奴ねぇ。氷漬けにしちゃうわよぉ」
本当にやりかねないことを冗談めかして歌うように呟く野ばらに、連勝はゆっくりと近づいた。
「氷漬けか…、時々それも良いかなって思うことがあるよ」
「はぁ?何よ、ついにスーパーノーマルからアブノーマルへ転落ってわけ?」
クスクスと笑うその頬に、そっと手を伸ばす。
その、いつもと違う連勝の行動に、野ばらは笑うのをやめて不思議そうな表情を浮かべた。
「ちょっと、どうした…の……!?」
連勝はひどく緩慢な動作で彼女の頬に手を添えて、そのまま顔を寄せて口付けた。
呆然と硬直する野ばらをよそに、触れさせただけの唇を離し、すぐにもう一度深く唇を合わせた。
手を、頬から金糸のような流れる髪へ滑らせて後頭部を支える。
柔らかい唇を割って舌を差し入れ、酒の匂いの残る口腔内を弄る。
そうして、連勝の好意を煽るかのように、部屋に互いの唇から水音が響いた。
ただでさえ酔って力の入らない野ばらから、くぐもったような声とも吐息ともつかない音が漏れる。
「…んっ……ふっ…」
(酒くせ…)
持て余した欲求に連勝自身も困惑しながら、それでも熱に浮かされるように口付けを繰り返す。
(あー、やばいな、止まんないかも)
空いた手が野ばらの華奢な背をゆっくりと撫でるように滑り、腰まで辿りつく。
彼女の白いたおやかな細腕は、連勝を遠ざけるため力なくその胸に預けられていたが、それがまるで縋っているかのようだった。
据え膳、という言葉が不意に連勝の頭に浮かぶ。
口付けを更に深くし、自然な流れで覆いかぶさるように腰に回した手で野ばらの体を抱き寄せる。
そのまま彼女の様子を確認するために目を薄く開けると、切なそうに潤んだ瞳と目が合った。
次の瞬間、それまで焦点の合ってなかった彼女の瞳が、焦点を取り戻した。
それがきっかけで、連勝も一気に意識が熱情から現実へ引き戻された。
「ぁ…あんた………」
わなわなと体を震わせる野ばらに、さっきとは違う意味で鼓動が爆発的に跳ね上がった。
濡れた唇を拭いながら、雪女は真っ赤な顔で連勝を睨み、次の瞬間酔っ払いとは思えないスピードでアッパーを繰り出していた。
その拳は、空間を切るように、抉るように正確に目の前の相手を捉え、そして一撃必殺の攻撃力で連勝の意識を吹き飛ばした。
暗転
「………氷漬けにされなかっただけマシか…」
うつ伏せたまま、一人ごちた言葉は安堵と、そして僅かばかりの残念そうな色が含まれていた。