二次創作

□合鍵
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桜のご飯はおいしかった。
今、当の桜は鼻歌交じりのご機嫌上々で皿洗いをしてくれている。
雁夜はここまでのご都合主義ともいえる展開に、必死に頭を回転させて思考を巡らせていた。

(何だこれは、何だこれは、何なんだこの状況は!?まるで妄想みたいな状況じゃないか!美少女女子高生が一人暮らしの部屋に押し掛けてきて、あまつさえ炊事してくれてるなんて!!)

頭を抱えて桜の方を覗き見る。

(桜ちゃん可愛いな………じゃなくて!)

学校帰りにそのまま来たようで、制服の上から調理実習にでも着用するかのような白いシンプルなエプロンを付けている。
長くもなく短くもないスカート丈の下から、ほっそりと白い足が艶めかしく…
(艶めかしく…じゃなくて!)

下賤な感情を、頭を振って振り落とす。
もう一度桜の様子を捉えようとして、

「大丈夫ですか、雁夜さん」

すぐ目の前にその顔があった。

(ち、近い)

雁夜は、息を呑んだ。桜の薄く吐く息が、自分の唇に柔らかく掛かる。熱っぽく見つめてくる桜に、その真意を計りかねて息をすることも忘れた。

「私がただ、心配しただけで来たと思いました?」

ふふ、と擽ったそうに笑うその色香に、雁夜は今度こそ本当に目眩がした。

「桜ちゃん…それって…」

「雁夜さん、本当はもう、気付いてるんでしょう?」

桜の瞳がゆっくりと閉じられ、名前と同じ桜色の唇が雁夜に更に近づく。

「さ、桜…ちゃ…」

疲れと混乱と艶やかな少女の色香に、雁夜は既に思考が止まっていた。
震えそうになる雁夜の両手が、そのたおやかな娘の肩を触れるか触れないかの力で覆った。

唇が合わさる、まさにその時だった。

ピリピリピリピリピリ!とけたたましい着信音が部屋に鳴り響いた。
その音で気を取り直した雁夜は、桜の両肩を覆っていたその手で桜の肩を強く握り、力いっぱい二人の距離を開いた。

「あっぶねえ………!!」

今、自分がしようとしていたことの浅はかさに、顔が焼けるように熱く感じた。
携帯は桜の学生かばんの中で鳴っていたが、すぐに鳴りやんだ。
動悸と息を殺していたことにより、自分の息が荒くなっていることすら恥ずかしい。
雁夜は桜を両手で引き離したまま頭を下にして、そのまま桜の顔を見るのを恐ろしく思った。
どんな蔑みと侮蔑の眼差しが刺さっているのかと考えると、このまま桜が帰ってくれないかとまで思った。

どのくらいその体勢でいただろうか、体感時間は10分にも上ったが、実際には10秒といったところだろう。

ゆっくりと雁夜は面をあげた。

「ご、ごめんね、桜ちゃん、気持ち悪くなかった……」

それ以上言葉は出なかった。桜は雁夜の手を払って素早く彼に口付けて素早く離れたのだ。
あっという間のことだった。

「すみません、雁夜さん。多分家からの電話です。帰らなくちゃ、また来ますね」

石のように動かなくなった雁夜をみて、桜はうっすらと染まった頬で笑った。

「いまのは、雁夜さんにご飯を作った料理代として、いただいておきますね」

そしてパタパタと雁夜の部屋を出て行ったのだった。
それからしばらくして、金縛りから解けた雁夜は熱を持った自分の唇を手で覆い、鳴りやまない心音に悩まされながら眠れない夜を悶々と過ごすのであった。
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