二次創作
□哀れな人(レ・ミゼラブル)
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吸い込まれるように澄んだ青い空を見上げて、凜々蝶は目を細めた。
「…連日の雨が嘘のようだな」
「はい、久しぶりの晴れ間ですね」
ここのところ雨の日が多く、実に5日ぶりの晴れの日だった。
凜々蝶の部屋で二人で何をすることなくゆっくりと休日を過ごそうということになったのだが
「…御狐神くん」
「はい、凜々蝶さま」
「何故くっつく」
耳元で、ふふ、と笑う声が聞こえた。小さな耳朶に息がかかり、凜々蝶は後ろから抱きすくめられた状態で体を強張らせた。
「今日はゆっくり疲れを癒やせとのご命令でしたので」
「そ、そうだ!僕に抱きつけという命令ではないぞ!」
「こうさせていただいていると、とても安らぐのです」
「こんなことで本当に疲れがとれるのか…」
げんなりとした声色で愛しい主人が呟く。御狐神はその呆れすら愛しく思いながら、包み込んだ少女の小さな右肩に顔を埋める。
「ええ、癒されます」
「君は変わっているな」
「そうでしょうか。人は温もりを求めるものでしょう?」
呟きながら、青年は腕の中の体温を衣服の布越しに味わう。
「凜々蝶さま」
「な、何だ」
「もし、差し支えなければ、凜々蝶さまのお話をお聞かせ願えませんか」
「?どういうことだ」
「貴女の声を聞いていたいのです」
「は?」
「何でも良いです、何か話していて下さい。聞いていたいのです。凜々蝶さまの声を」
「何でもって…」
少女が青年の発言の意図を図りかねて困惑している間も、青年の腕の力は緩むことなくしっかりと回されている。
そうして、うっとりと御狐神は目を閉じる。
五感すべてを、彼女を感じることに集中させるために。
この体は彼女を感じるためにあるのだ。
「み、御狐神くん…」
困ったような声を絞り出す少女が、自分を拒絶することができないように、今日は弱った振りをしていよう。
狡猾な青年は彼女に見えないように薄く笑って、その肩に口付けた。
凜々蝶はその口付けに気付かぬまま、最近読んだユゴーの『レ・ミゼラブル』のあらすじを壊れたレコーダーのようなぎこちなさで語り始めた。