二次創作

□過去作
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夕焼けに真っ赤に染まった空を見上げて、黒髪をなびかせた少女は静かに目を閉じた。
視界を閉ざすと、耳や鼻から得られる情報が増しまるで自分が人であることを忘れてただの空気になったような感覚に陥る。
いや、既に自分は人間ではなかった、と考えを打ち消した。
彼女の名前は暁美ほむら。
数えることをやめてしまうくらいの『今』を繰り返して、再び終わらない『今』の時間に存在している。

ほむらは重い瞼をこれ以上くっつけられないくらいに強くしっかりとくっつけ、夕方の空気に身を任せ大事な友達のことを考えていた。
たった一人の友達、鹿目まどか。
彼女の存在がどれだけ自分の救いになっただろうか。


「そんなところで、何してるんだい?暁美ほむら」

音もなく忍び寄る来訪者に、ほむらは静かに口を開いた。

「消えなさい。あなたと話すことなんか何一つないわ」

その姿を確認する必要はなかった。いや、あえて確認しなかった。
視界に入れるだけで胸糞悪くなるその相手は、地球の生物ではない。

「僕は君と話したいんだけれど」

相変わらず空気を読む気はないらしい。
まるで神経を逆撫でしに来ているような、場にそぐわない明るい声でその異星生物は呟いた。
呟いたといっても、口は動いていないのだが。

「暁美ほむら、イレギュラーである君がまどかを魔法少女にしたくない理由は、僕たちに協力をしたくないということでいいのかな?」
「当然ね。あなたたちは私たちからの賛同や協力が得られると思っているわけではないでしょう?」

空気で分かる、奴は今首を傾げた。

「広義に解釈してもらえれば、僕たちに協力してくれる人間たちが多いと思っていたんだけど」
「本当に、あなたたちは浅はかね。そんな考えで自分たちの思うようにことが運ぶと思っているの?」

ふふ、と不快な哂い声が耳に障った。

「ハッキリ言えば、君は想定外な要素が多すぎる。僕の考えは粗方知っているんだろう?僕らからすれば増殖の一途をたどる君たちが一つ一つの個体を気に留めることが非常に不可解だ。更に言わせてもらえば、それだけでも理解不能なのに君はまどかに異様に固執し、まどかの為なら他の多くを犠牲にしても良いと考えているんだろう?恋愛をするなら、さやかみたいに他を犠牲にすることもあるだろう、もちろん僕たちには理解できないけれど。でも君とまどかは同性同士だよね」

挑発されている、というのはもちろん分かっている。

「まさか、君はまどかに恋愛感情を抱いているなんて言わないよね」

分かっていたが、言葉を発せずにはいられなかった。

「恋愛感情を抱いていたら、何なのかしら」
「別に、僕はどうも思わないけどまどかが知ったら気持ち悪がるだろうね」

閉じていた瞼を開いた。
空は薄暗い夕暮れ。まるで泣いているような空だった。
あの日、ほむらがまだ魔法少女になる前に会ったまどかは、自分に自信をもって前を見据える強い女の子だった。
彼女を守れる私でありたい気持ちに嘘はない。
しかし、ほむらは夕暮れを見て想う。
魔法少女のまどかの後ろに広がっていた青空を。
彼女の強い眼差しを。

隣にたたずむ来訪者を、黙って拳銃で撃ちぬく。
弾丸は白い獣の額を直撃した。

「まどか、あなたの為なら…私は…」

進む道が袋小路でしかなくても、ひたすら進み出口を探すことしか選択肢のない少女は静かに闇に身を沈める。
後には白い獣の美しい肢体だけが静かに横たわっていた。

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