二次創作

□映画を見よう
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ラウンジから自室のある階へエレヴェーターで移動中、僕は徐に口を開いた。

「映画を見ようと思う」

それは、彼を誘うつもりだったのだが、この発言だけではただの今日の行動宣言のようになってしまった。
慌てて言葉を付けたしてみる。

「それでその、映画を、い、一緒に、み、見ない…か?」

ちらりと横に立つ御狐神くんを覗き見る。
一瞬きょとんとした顔をした彼が、少し頬を赤らめて柔和な笑みを浮かべた。

「嬉しいです。僕で良ければ、是非、ご一緒させてください」

春爛漫、という言葉が相応しい昼下がり、僕と御狐神くんは映画のDVDを鑑賞することになった。

「何のDVDをご覧になるのですか」

「ふっ、これだ」

仰々しく取り出して彼の目の前に突き出したのは、少し前に話題になった探偵ものの映画である。
映画館で観たかったのだが、結局行きそびれて公開が終わってしまったものだった。

「シャーロック・ホームズですか」

「ああ」

ミステリーというジャンルの中では確かに定番中の定番である。
しかし、万人受けするからこそ、彼もきっと退屈することはないだろう。
僕はただ映画を見たかったわけではない。
こうやって、何気ないことで彼を誘うことによって、もう少し自分を素直にさせることができるかもしれない、と思ったのだ。
時間を共有することにより、僕たちの仲も以前より近くなるだろうし、何より僕は彼と一緒にいたいのだ。

…などと、口が裂けてもまだ言えない。

「どうかなさいましたか、凜々蝶さま」

「あ、いや、何でもない!気にするな!」

シタッと御狐神くんの眼前に右手を突き出して詮索を避ける。

「それで、だな、あとで…」

「はい」

すう、と息を吸って、次の言葉を紡ぐための決意をする。

「あとで、君の部屋に行っても良いか?」

殊更にゆっくりと聞いてみた。言いながら、心臓がゴンゴンと音を立てて鳴り響き、一気に頬と耳が熱くなった。
いきなり御狐神くんの部屋に行きたいなどと、はしたなかっただろうか。
言った先から後悔の嵐が吹き荒んだ。

「…僕の部屋、ですか。勿論構いません、大歓迎です。何時間でも何週間でもいっそのこと永久にでもいて下さって構いません」

「それじゃ軟禁状態じゃないか!」

嬉しそうに笑う御狐神くんに思わず突っ込みを入れる。
そして、想像以上に浮足立った心に困惑した。

(嬉しい、一緒に御狐神くんの部屋で映画…)

口元が緩んでしまいそうになるのを叱咤して、キリ、と真面目な表情を繕う。

「では、後で」

「はい、いつでもいらしてください」

彼に背を向けて自室に戻ると、目の前の鏡に頬と口元が緩んだ自分の姿があって、そこでまた熱が上がったような気がした。
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