二次創作

□愛とは素晴らしいものだ
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―――まただ。
肩のあたりまでの流れるように滑らかな黒髪に、獅子の眼のような金色の瞳をもつ美しい女、シャーネ・ラフォレットはその日公園にいた。
その眼光鋭い視線の先にいるのは数羽の雀。ふっくらとした蕾のような体で、公園の地面に落ちている何かを啄んでいるようだ。
シャーネは言葉を持たない。もし言葉を紡ぐことができるなら、彼女はうなり声を上げていたに違いない。
―一体、誰が?
雀はシャーネの視線に気づいてか気付かずか、ひたすら地を這うように移動を繰り返す。
マジソンスクエアの公園は今日も平和だった。木漏れ日の気持ちよい昼下がり、シャーネがここに来るのは今日が初めてではない。
彼女の婚約者、クレア・スタンフィールド(現:フェリックス・ウォーケン)との待ち合わせに良く利用される場所である。
待ち合わせは大抵シャーネが先に着いてクレアを待つ。
尤も、クレアが先に来ていて、時間まで身を潜めて愛しい彼女を観察していることも多いのだが。

今日もシャーネはクレアより先に来て、温かな日差しが指すベンチで一人物思いにふけっていた。

そして、先ほどの疑問になる。
最近、何者かが雀に餌をやっているようで、いつもシャーネが座るベンチの周りがとても賑やかなのだ。
別に迷惑をしているというわけではない。愛らしい小動物を眺めていると、少し癒されるような気がする。
餌は多く残っているところをみると、地に撒かれてからそんなに時間が経過しているとは思えない。
そっとその小鳥に手を伸ばしてみると、彼らは横へ跳ねながら距離を置く。
―…つれないな。
ぼんやりと雀と戯れていると、まだ待ち合わせの時間前だが待ち人が現れたようで後ろから肩に手を置かれた。

「小鳥と戯れるシャーネも可愛いな」

耳元で突然呟かれて、シャーネの頬がうっすらと朱に染まる。
ジットリと睨みながら彼女が振り向くと、そこにはニヤリと口元を緩めた赤毛の男がいた。

「待ったか?」

赤毛の男、待ち人であるクレアの問いに目をそらさずに首を振る。

「そうか。今日はちょっと買い物をしたいんだが、付き合ってくれるか?」

そっと後ろから彼女の体に両腕を回すと、更に顔を赤くしたシャーネが頷くのが分かった。
もう少しこうしていたいという気持ちもあったが、さっさと買い物を終わらせて二人でゆっくりするのも魅力的なので、クレアは名残を惜しみつつ愛しい娘からそっと離れた。

ああ、愛とは素晴らしいものだ。立ちあがったシャーネの肩に右手を乗せて自分の方に寄せる。
クレアは緩む口元を隠すこともせず幸せに浸る。
彼女は気付いていないようだが、小鳥をベンチの周りに集めるために予め餌を撒いていた甲斐があった。
おかげであんなに安らかな顔を浮かべるシャーネの顔が見れた。
一人で思案する娘の顔を遠くから見るのも好きだが、やはり愛しい人の楽しそうな顔を見られる方が良い。

そうしてクレアは次のシャーネの反応を推測する。

今日の買い物は生活用品の買い足し。

いずれ二人で暮らすときの為、などと言ったら、彼女はどのような反応をするだろうか。

訝しげにこちらを見つめる金色の瞳に、軽く肩を竦めて見せてそして想像する。
自分たちの将来を。

「酷いなぁ、気持ち悪いとか言うなよ」

抱き寄せていた肩を更に強く抱き、額に軽く口付ける。

「……っ!?…!…!!」

「はいはい、照れるなよな〜」

とても伝説の殺し屋とは思えない浮かれた声が公園に響く。

ああ、愛とは素晴らしい。

いつもと違う心臓の音にシャーネは戸惑いつつも、クレアに微笑みかける。

雀たちは餌を食べ終わり、散り散りに飛び立っていった。

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