夢小説 22

□息がピッタリ
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同じ会社で仲良しの千鶴ちゃんに、藤堂平助君という彼氏が出来たのは、3ヶ月前。

その平助君が、うちの会社があるオフィス街の中では、イケメン商事と言われている、薄桜商事の人だと聞いてビックリ。
そして更に、平助君は、私が密かに想いを寄せている、薄桜商事の原田さんと仲が良いって聞いて、またまたビックリ。

って事で、千鶴ちゃんにお願いして、今日は 平助君と千鶴ちゃん、そして原田さんと私で、居酒屋さんに来ています。

私は以前、通勤電車の中で原田さんを見かけて、一目惚れ。
だから、当然原田さんの事は知っている(だから、千鶴ちゃんにお願いしたんだけど)
でも、原田さんにしたら、私の存在なんて知るはずなくて、平助君に 「千鶴と、千鶴の友達が来て一緒に飲むから、左之さんも行かねぇ?」って感じで誘われただけだろうから、私がいて 飲みづらくないかな…とか、私は場違いなんじゃないかな…なんて、原田さんとお近づきになれる機会をもらって、めちゃめちゃ嬉しいのに、こんな時に限って 私のマイナス思考が作動する。

そうじゃなくても、トイメンに原田さんがいて、緊張してカチカチなのに、マイナス思考が作動してるおかげで、尚更 固まるばかりの私。

原田さんの顔を見たいのに、緊張して見られなくて、俯いてしまう。
俯いた私から見えるのは、原田さんの手。


大きくて、がっちりした手。
あ、でも 指は長くて綺麗。


そんなふうに思っていると、

『退屈してねぇか?』

心配そうに私を覗き込む、原田さん。

「は、はい!大丈夫です!全然退屈なんかじゃないですから!」

思わず力一杯言ってしまった私に、原田さんは笑顔で

『なら、いいんだ。可愛いな、お前』

そう言って、頭をポンポンとする。


キャーッ、原田さんが笑顔で『可愛いな、お前』だって!
嬉しい!
社交辞令ってわかってても、めちゃめちゃ嬉しいー!
しかも、頭ポンポンてされちゃったし!


内心、かなりの興奮状態の私。
でも、それと同時に、原田さんの気遣いに胸が痛んだ。


原田さんとお近づきになりたくて、千鶴ちゃんに お願いしたのに、お願いした私が原田さんに気を遣わせちゃうなんて、私ってば最低。


「すみません。気を遣わせてしまって。緊張してるだけですから、大丈夫です」

言うと

『俺相手に緊張なんかしなくていいからよ。いつもみてぇに、笑ってくれよ』


え!?
いつもみたいに…って!?
それって、どういう事?


原田さんの言っている意味がわからなくてキョトンとしていると

『平助に無理言って、今日をセッティングしてもらったんだけどよ、嫌じゃなかったか?』

「え!?…あの、平助君に無理言って…って、セッティングって、どういう意味ですか?」

『あ?何も聞いてねぇのか?』

「え?」

私と原田さん、二人同時に平助君を見ると、平助君は

「じゃあ千鶴、あとは二人に任せて、俺達は違う席に移ろうぜ」

言うと、サッサと席を立ってしまう。
千鶴ちゃんも、慌てて 平助君について席を立ったけど、その時に 私の耳元で小声で

「大丈夫だから。頑張って」

そう言って、行ってしまった。

あっという間に取り残された原田さんと私は、一瞬の出来事に呆気にとられてしまったけど、原田さんは直ぐに

『平助のヤツ、随分 気を利かしてくれるじゃねぇか』

言ってから、続けた。

『通勤電車の中で、いつも見かけるお前が、ずっと気になってたんだ。でも、いきなり声をかけちまうのも変かと思って、いつも見てるだけだった。そんな時、平助から、彼女が出来たって聞かされて、写真を見せられたんだ。その写真には、平助の彼女とお前が写っててよ。慌てて、平助に頼んだんだよ。この子を、紹介してくれってな』

「え?…それ、本当ですか?」

『あぁ』

「…だって、原田さんの事、私 ずっと見てて。それで、千鶴ちゃんの彼の平助君が原田さんと仲がいいって聞いたから、原田さんとお近づきになりたくて、千鶴ちゃんにお願いして、今日をセッティングしてもらったのは、私の方で…」

『それ、本当か?』

驚いた表情で私に聞いてくる原田さんに、私は黙って頷くと

『俺達、息がピッタリじゃねぇか。きっと、相性もバッチリだな』

と、笑って言った。


―終り―

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