ABYSS

□封印
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ずっとずっと好きでした。
でも…



『封印』




任務を終え、自室へ戻る。自分の夢のため、今日もたくさんの人を殺してきた。衣服からは、返り血を浴びたため鉄臭いがする。それがいやで私はすぐに衣服を脱ぎシャワーを浴びた。
ベッドの中、眠れなくて窓の外をを見る。外では丸い満月が暗闇を淡い光で照らしていた。
人を殺した日はいつもそうだ。…眠れない。人なんて虫と同じようなものなのに…。

「昔は虫も怖くて逃げていたんですがね…。」

昔を思い出してクスッと笑う。
怖い怖いと泣きながらジェイドに抱き付いたのを今でも覚えている。彼は呆れながらも虫を追い払ってくれた。私をいつも邪険にしながらそれでも優しいジェイドが私は大好きだった。
だからずっとあなたの後をついて回っていて…。


裏切られ、故郷に置いていかれても、ずっと私はあなたという呪縛から逃れることは出来なくて…。
いや…裏切られて益々この想いは増し、会いたくて会いたくて堪らかった…。

傷付いた心はやがて憎しみへとかわり、毎日あなたへの憎しみと愛情で私の頭はいっぱいで…。

気付けばあなたは私の敵になっていた。


私はただ昔のように、みんなで一緒にいられればそれだけでよかったのに…。


「でもきっともう昔のような暮らしには戻れないでしょうね…。」
ふとそんな事を呟いて自分で悲しくなった。
夢のために私は多くの人を殺した。たぶんこの先もそれは変わらない。先生のためなら何百人でも殺すだろう。
でもそれで昔のような条件が揃っても、きっと昔には戻れない。
私は多くの罪を犯した。そのな私を誰も許してはくれないだろう。あなただってきっとそう…。
分かっているけど辞められない。動きだした歯車をもう止めることは出来ないから…。
もし止める方法があるならばそれは死のみ…。

「もし死ぬならばジェイド…あなたの手で殺してくださいね…。」

その場にいないジェイドの代わりに、月に向かって呟くと、私は布団の中で目を閉じた。死した人を想い、一筋の涙が頬を伝う。

せめて夢の中でだけでも愛する人と笑っていられることを願いながら、彼は眠りに就いた。



あなたが好きです…
でもこの想いはしまっておきます…
でないと本当は優しいあなたが私を殺しにくくなってしまいますからね…

だからせめて
心だけでもあなたのそばに…




END
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