BlackBlack

□はじめましての言葉
1ページ/15ページ


上も下も、右も左もない場所を漂っていた。

時たま来る大きな波は俺の体を嬲り、様々な傷を付けていく。

せわしなく寄せてくる小さな波は、俺を深く深く底の見えない暗闇に落としていく。


いたい、…いた…い


目を開けるのも鬱陶しく、その痛みから逃れる為にただ緩く頭を振る。

重くのしかかるその痛みに終わりは無く、断続的に生まれる新たな傷に、心を占めるのは恐怖感だけ。


俺は…・・まだ、逃げ切れて……ない…??


そう考えた途端、体中の毛が逆立つほどの感情がその身を包んだ。

思わず見開かれた瞳は、四方から迫る闇をその目に写した。


ぁ、ぁ、ぁぁああ"あ"あ"


その身体に伸ばされる手を、足を、刃を、言葉を、払いのけたくて腕を振るおうとする。


!?


力を入れたはずなのに動かない両腕に目を向けると、そこにはにたりと笑う男女の陰があった。

少年の目が恐怖に歪められ、その唇から音の無い叫びが漏れ出した。


逃げられないから…


男女の影に心を奪われていた少年は、正面から降ってきたその声に勢いよく顔を向けた。

そして正面に立つ人の姿を目にし、その手に握られている刃を目にした途端、少年は腕の男女を払いのけ、無我夢中で走り出した。

いや、実際には走っているのかも分からない。

ただその存在から逃げたくて、視界から消したくて、少しでも離れたくて。

溢れる涙すらもその身に傷を生み出す。


逃げられないから。。


すぐ真横で響いた声に全身の血が粟立つ。

そちらを振り返る勇気も無く、がむしゃらに体を動かして逃げた。


もう嫌だ、もう嫌だ、もう嫌だ、もう嫌だ…


心の中で叫んでも手を差し伸べてくれる者は誰も居ない。

底なし沼のような恐怖はどんどん少年に侵食していった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ