BlackBlack
□序章
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その日は全国的な大雪となった。
降り積もる雪も、多いところでは一メートルを軽く超えている。
そして直も振りつづける雪は、どんどんその粒の大きさと量を増していく。
そして誰もが寝静まった夜中。
一人の少年がその身を雪に沈めていた。
『…………、』
固く閉じられた瞳はピクリとも動かず、まるで現実から目を背けているようだった。
白を通り越して青白くなっている肌にも雪は積もり、藍色の髪はほとんど白く染められていた。
それだけで少年がどのくらいの間この場所に横たわっていたのかが分かる。
バキ、ガッ…ドゴ、
夜の静けさを破ったのは何かを破壊する音。
冷たい空気を切り裂きながら発せられる呻き声や喧騒は、白い世界に確実にその存在を確立していた。
「ッチ、…舐めやがって」
少年のいる世界とはまるで別の世界がそこには存在していた。
派手な服に色様々な髪が、降りつづける雪を切り裂きながらその身を躍らせていた。
「な、まいきなっ……ぐぁ"!!」
時が刻むごとに荒れ狂う波は落ち着いていった。
大きな波も形を変え、やがて小さくなっていく。
「っらぁ!!…」
「う"ぐぁ……」
繰り出される明確な攻撃を、赤い軌跡を残しながら軽やかに避けていく。
そして確実に致命傷になるであろう場所を的確に素早く突いていく。
常人離れしたその一人の男の姿に、あるものは畏怖を、またあるものは畏敬を抱いていた。
「……これでお終い、か」
その戦いが始まって僅かな時間の後、再び静けさを取り戻したその場所に立っていたのは、赤茶色の髪をした男だけだった。
そして雪の上には数多くの真新しい怪我人が横たわっていた。
しかし、その一つとして意識のあるものは居なかった。
「帰るか」
男は誰に言うわけでもなくそう呟くと、その手で伸した者達を一瞥し、家へ向けて踵を返した。