弐.
□モキチ
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「えっと…どちら様で?」
そこには美麗と言ってもいい程の一人の男がいた。歳は総悟と同じくらいだろうか。天人なのか外国の人間なのか。180p以上はあるだろう長身細身で少し長めの金髪に青目。鼻筋は通り、整った顔立ちのその青年は明らかに日本人離れした風貌だった。
「俺たちが何を聞いてもダメなんだよ。副長に会いたいの一点張りだ。トシの知り合いか?」
少し困り顔の近藤さんの隣では総悟が無言の重圧をかけてくる。
俺はそれに耐えながら、
「いや、本当に知らねぇんだけど…ってゆーか、あんた名前は?俺と何処かで会った事あるのか?」
目の前の男に問い掛けた。
すると、
「フクチョー…会いたかった。俺、茂吉」
「も、もきち??」
片言の日本語を喋りながらも、名前はしっかりと日本人。一体こいつは何なんだ。こんなインパクトの強い奴なら記憶に残っているハズなのだが…。
「茂吉さんよ、お前は俺に会いたがっていたようだが人違いじゃねぇか?悪いが俺はあんたに会った記憶が無いんだよ」
出口の見えない状況がもどかしい。俺は『本当に分からない』と正直に伝えると、
「覚えてない?」
茂吉はしゅんと悲しそうな顔をした。
しかし、
「フクチョー覚えてなくても、俺、覚えてる。沢山チューしてくれて、ギュッてして…えと、それから…」
「はぁぁぁっ!?」
茂吉の口から出た言葉に思わず驚きの声を上げるも奴は構わず続ける。
「あとね…あっ!『お前可愛いなぁ、俺んとこ来るか?』って言った。でもフクチョー直ぐに『まぁ無理か』って言った。でも俺フクチョーに会いたかったから今日来た」
そしてまだあどけなさの残る顔で目をキラキラと輝かせながら、
「フクチョー、会いたかった!大好き!」
茂吉は俺よりも大きな身体で抱き付いてきた。
「えぇっ!ちょ、待っ…!!!」
無邪気に俺を抱き締めるその隣では近藤さんがドン引きしている。
『えっ、お前、好いた相手にはそんな態度なの?お前、そんなキャラだったの?』
って顔をしている。
そして更にその隣に立つ総悟に関しては言わずもがなで。もう無表情で刀抜いちゃってるもん。
もう何がなんだか訳が分からない。俺は茂吉の腕から逃れると、
「ちょ、ちょっと頭の整理をさせてくれ」
そう言って煙草を取り出す。
すると、
「頭の整理なら俺がしてやりまさァ。頭蓋骨砕いて、そのスカスカの脳みそ見てやるよ」
総悟は刀を構えるものだから、
「うん…いや、マジでちょっと待って。正直一番動揺してるの俺だから」
俺は必死に記憶の紐を解いてはそれを手繰り寄せていた。
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