□天然小悪魔*沖田
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「ん・・・、わりぃ」

電車に揺られ転た寝。いつの間にか総悟の肩にもたれ掛かっていた。俺はいそいそと体勢を立て直す。


奴は少し不機嫌そうに、

「重い」

言いながら、冷やかな目で俺を見る。



ズキン、

心臓が痛い。



返す言葉を必死に探すが、見つからない。いくら探しても見つからない。そして、結局先程と同じ言葉を繰り返すことにする。


「わ、わりィ」


言いかけて、



「たまには俺にも肩貸しなせぇ」


コツン。


奴は俺の肩に頭を預けてくるものだから、今度は心臓がとび跳ねた。


少し横を向けば、奴の髪が俺の頬を撫でる。シャンプーの香りに紛れて少しだけ総悟の匂い。

一気に顔が熱くなる。全身が固まった。




例えば、これが恋人同士なら、お互い寄り添って、肩を貸して頭を預けて。電車の中、延々とそんな時間を過ごせるのだろうか。


普段、憎まれ口ばかり叩くくせに、何故こんなにも人懐っこい。肩を貸しながら沸き上がるのは『期待』という言葉。




しかし、



「やっぱ、あんたの肩、高さが合わない」



言いながら、奴は体勢を立て直す。

無残にも打ち砕かれる『期待』。胸の奥が澱む。そんな俺に構うことなく、奴は腕組みしながらうつらうつら。前後左右に揺れるものだから、


『いいから、こっちこい』

そう言って、奴の頭を引き寄せることが出来たなら、どんなに幸せだろう。




勿論、そんな関係に至っているはずも無く。臆病な俺には到底無理な話で。もし引き寄せた手を払い除けられたなら、『ショック』よりも『恥ずかしさ』と『後悔』が先立つだろう。


俺は、

「おい、隣の人にぶつかってんぞ」

「ん・・・」

揺れる奴の肩を叩きながら、

「俺、次で降りるから」

「へィ」

微睡む奴に声を掛け、

「寝過ごすなよ、じゃあな」

「分かってやす」

電車を降りる。



シャンプーに紛れ、微かに香った総悟の匂い。頭に、首に、胸元に顔を埋めて、その香りを、お前を、独り占めしたい。一人駅に降り立ち、沸き上がるのは強烈な欲。


そんな日が来るのかは、分からないけど。


→(あとがき)
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