□天然小悪魔*土方
1ページ/2ページ


休憩時間、机を挟んで会話する。お互い手には携帯を持ちながら、二人して目線は携帯の画面。どうでもいい会話。聞いているのか、聞いていないのか。『あー』とか、『うん』とか二人して適当に言葉を交わす。


不意に会話が止まった。


「?」

何気なく顔を上げる。と、同時に名前を呼ばれて。

「総悟」

野郎の手が顔に伸びて、

優しく俺の目元に触れる。

「まつげ」

言いながら、目元に付いてる俺の睫をそっと落とした。


やめてくれィ。そんな仕草。

いつもドライな野郎。普段、必要以上に他人に触れることはない。




この前だって。

『おい、まつげ付いてんぞ』

俺に言いながら、あんたは自分の目元を指差す。その指は、決して俺に触れることはなくて。


なのに、今日は何故。


突然の反則に、思わず顔が熱くなる。

そんな俺に構うことなく、

「ん、どうした。顔赤いぞ」

野郎は続ける。

「熱でもあんのか?」




この後に待ち受けている出来事。

それは、

『大丈夫か?』

そんな台詞を吐きながら、額を当ててくる。お決まりのパターンだ。そうなれば野郎は確信犯で。そしたら俺は言ってやる。

『あんた、俺のこと好きでしょ?』

あんたはきっと真っ赤な顔して。その後、一体どんな言葉が返ってくるんだろう。






しかし俺は無情な現実に引き戻される。

「無理すんなよ」

一言言うと、野郎は再び手元の携帯へと視線を落とす。

野郎の額が俺の額に触れることは無い。



先程、野郎が触れた俺の目元。俺はそこを指でなぞりながら、

『そんな上手くいくハズねぇよ』

自分に言い聞かせる。心の何処かで抱いていた期待を払拭させるかのように。





『あ、それ鼻毛でさ』

そんな冗談の一つも言えないくらいドキドキして。

俺は野郎の気紛れに振り回される。


→(あとがき)
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ