参
□天然小悪魔*土方
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休憩時間、机を挟んで会話する。お互い手には携帯を持ちながら、二人して目線は携帯の画面。どうでもいい会話。聞いているのか、聞いていないのか。『あー』とか、『うん』とか二人して適当に言葉を交わす。
不意に会話が止まった。
「?」
何気なく顔を上げる。と、同時に名前を呼ばれて。
「総悟」
野郎の手が顔に伸びて、
優しく俺の目元に触れる。
「まつげ」
言いながら、目元に付いてる俺の睫をそっと落とした。
やめてくれィ。そんな仕草。
いつもドライな野郎。普段、必要以上に他人に触れることはない。
この前だって。
『おい、まつげ付いてんぞ』
俺に言いながら、あんたは自分の目元を指差す。その指は、決して俺に触れることはなくて。
なのに、今日は何故。
突然の反則に、思わず顔が熱くなる。
そんな俺に構うことなく、
「ん、どうした。顔赤いぞ」
野郎は続ける。
「熱でもあんのか?」
この後に待ち受けている出来事。
それは、
『大丈夫か?』
そんな台詞を吐きながら、額を当ててくる。お決まりのパターンだ。そうなれば野郎は確信犯で。そしたら俺は言ってやる。
『あんた、俺のこと好きでしょ?』
あんたはきっと真っ赤な顔して。その後、一体どんな言葉が返ってくるんだろう。
しかし俺は無情な現実に引き戻される。
「無理すんなよ」
一言言うと、野郎は再び手元の携帯へと視線を落とす。
野郎の額が俺の額に触れることは無い。
先程、野郎が触れた俺の目元。俺はそこを指でなぞりながら、
『そんな上手くいくハズねぇよ』
自分に言い聞かせる。心の何処かで抱いていた期待を払拭させるかのように。
『あ、それ鼻毛でさ』
そんな冗談の一つも言えないくらいドキドキして。
俺は野郎の気紛れに振り回される。
→(あとがき)