□借りを返すお話
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「あ、旦那」

一人市中見廻り、道の先に旦那の姿を捉えた。女と立ち話。女は笑顔で話す一方、旦那は死んだ魚のような目で会話する。

暫くすると、

「またね」

女はそう言い、手を振り去る。旦那もヒラヒラと手を振れば、

「おぉ、銀さん」

今度は男に声を掛けられる。二人そのまま立ち話。相変わらず死んだ魚のような目をしてら。

そしてまた、

「じゃあ」

男が言いながら去る。そして不意に旦那と目が合った。


「沖田」

「ども」


俺は旦那に近付くと、


「旦那、モテモテですねィ」

「職業柄ってやつだろ」


ふと思い、口にする。


「何か旦那って、女も男もイケそう」

「え、何。俺が両刀ってこと?」

「何となく」


特に深い意味は無い。男女問わず慕われる旦那。その様子を見ながら、何となくそう思い、何となく口にしただけ。



すると、

「知りたい?」

言いながら、俺の腕を掴むと隊服の袖を捲る。俺の腕には以前負傷した時の傷痕。(※【話*参】『その日、その時』より)

旦那は黙ってそれを見つめると、

ペロッ、

その傷痕に軽く舌を這わす。その目は死んだ魚の目ではなく。鋭く俺を見る。そして、

「試してみる?」

掴まれたまま囁いた。

「お・・・、俺ぁ遠慮しときやす」

動揺を悟られないよう、平常を装う。しかし腕を掴まれたまま動けなければ、目を逸らすことすら出来ない。動揺しているのは明らかで。突然の旦那の豹変に、俺は驚きを隠せない。



その時。

 
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