弐.

□着衣(+α)
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今宵、屯所の大広間で行われる酒宴。

『今年もお疲れ様でした』の意を込めて。

それは所謂『忘年会』

夜勤の隊士どもは勿論不参加で。
明日が早番の隊士どもは一杯だけ。


明日は遅番だ。俺は心置き無く酒をかっ食らう。


「おい、総悟。トシはどうした」

「仕事が立て込んで、少し遅れるそうで」


「そうか、じゃあ俺たちは先に始めとくか」

「もう、始めてやす」

「がはは、お前は気が早いな。まぁ、今日は無礼講だ」


そう言って笑う大将に酌をし、俺は二杯目を流し込んだ。



どれくらい時間が経っただろうか。



「副長、お疲れ様です」

「お注ぎします」

隊士どもの声が聞こえ、広間の後ろに目をやれば、仕事上がりの風呂上がり。着物姿の野郎を捉えた。

「ん、じゃあ一杯だけもらうわ」

「どうしたんですか、体調でも悪いんですか?」

尋ねる隊士に、

「いや、徹夜徹夜で今にも寝そう。一杯だけ飲んだら部屋に戻る」

そう言い、注がれた酒を呷る。


そして、

「お前ら俺に構わず呑め。仕事に支障の無い程度にな。羽目外し過ぎるなよ」

空になった野郎の杯。そこに酌をしようと近付く隊士にヒラヒラ手を振り制止すると、

「部屋戻る前に、近藤さんの所行ってくらぁ」

杯を片手に立ち上がった。


野郎が此方へ向かって来る。そして俺の姿を見つけると、

「あんまり飲み過ぎるな」

ポンポンと頭を軽く叩きながら通り過ぎようとするものだから、

「気安く触んじゃねぇ」

大勢の目の前でそんな事されて。一人気恥ずかしい気分の俺は、野郎の手を払い除けた。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


その所作が気に食わなかったのだろう。野郎は俺をじっと睨みつける。しかし、その目は既に据わっていて。

これは相当弱っている。たった一杯でこんなになるとは。一抹の不安が過るも『まぁいいや』俺はそう思い、野郎を無視して手酌する。

 
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