参
□天然小悪魔*沖田
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「ん・・・、わりぃ」
電車に揺られ転た寝。いつの間にか総悟の肩にもたれ掛かっていた。俺はいそいそと体勢を立て直す。
奴は少し不機嫌そうに、
「重い」
言いながら、冷やかな目で俺を見る。
ズキン、
心臓が痛い。
返す言葉を必死に探すが、見つからない。いくら探しても見つからない。そして、結局先程と同じ言葉を繰り返すことにする。
「わ、わりィ」
言いかけて、
「たまには俺にも肩貸しなせぇ」
コツン。
奴は俺の肩に頭を預けてくるものだから、今度は心臓がとび跳ねた。
少し横を向けば、奴の髪が俺の頬を撫でる。シャンプーの香りに紛れて少しだけ総悟の匂い。
一気に顔が熱くなる。全身が固まった。
例えば、これが恋人同士なら、お互い寄り添って、肩を貸して頭を預けて。電車の中、延々とそんな時間を過ごせるのだろうか。
普段、憎まれ口ばかり叩くくせに、何故こんなにも人懐っこい。肩を貸しながら沸き上がるのは『期待』という言葉。
しかし、
「やっぱ、あんたの肩、高さが合わない」
言いながら、奴は体勢を立て直す。
無残にも打ち砕かれる『期待』。胸の奥が澱む。そんな俺に構うことなく、奴は腕組みしながらうつらうつら。前後左右に揺れるものだから、
『いいから、こっちこい』
そう言って、奴の頭を引き寄せることが出来たなら、どんなに幸せだろう。
勿論、そんな関係に至っているはずも無く。臆病な俺には到底無理な話で。もし引き寄せた手を払い除けられたなら、『ショック』よりも『恥ずかしさ』と『後悔』が先立つだろう。
俺は、
「おい、隣の人にぶつかってんぞ」
「ん・・・」
揺れる奴の肩を叩きながら、
「俺、次で降りるから」
「へィ」
微睡む奴に声を掛け、
「寝過ごすなよ、じゃあな」
「分かってやす」
電車を降りる。
シャンプーに紛れ、微かに香った総悟の匂い。頭に、首に、胸元に顔を埋めて、その香りを、お前を、独り占めしたい。一人駅に降り立ち、沸き上がるのは強烈な欲。
そんな日が来るのかは、分からないけど。
→(あとがき)