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□この里、いい物件につき
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【火影室】




主「何の用なの」



綱「まぁ、座りなよ。良い酒が手に入ったんだ。飲むだろ?」






せつなは少し貯めてから“もらうわ”と答えた。綱手が5代目火影になり、リーの手術が成功した4日後の夜だった。






綱「イケる口かい?」



主「普通よ。少しでいいわ」






綱手の後ろでシズネはハラハラした。せつなは5代目火影にタメ口で話すせいだ。しかし綱手自身は全く気に留めてなかった。せつなをソファーに促すと、自らも向い合うように座った。2つのお猪口に大吟醸を注いだ。せつなの表情に緊張が見えたので、壁を取り払うために出来るだけフランクに接した。






綱「いちを伝えとこうと思って。リーの手術は成功したよ」



主「ふーん、良かったじゃない」



綱「そうだな」






せつながお猪口に口を付けた。リーの容態を聞き返すこともない。お互いに様子見なのか、しばらく沈黙が続いた。先に口を開いたのは綱手のほう。





綱「ありがとう」





礼を言うために。それにもせつなは何も返さなかった。お猪口の中の透明の液体をただ見つめた。綱手は続けた。






綱「今回の手術は成功するか不安だった。失敗する確率のほうが高かったらね」



主「・・・」






せつなの身体がぴくりと反応した。綱手も気づいた。関心のないフリしても、彼女がリーの容態をとても気にしているのは明白だった。見目麗しい客人は、強がるには演技が下手くそだから。






綱「だからお前がいなければ、成功したかどうか」



主「・・・したわよ」






再び綱手が礼を言おうとした矢先、せつなが止めた。






主「綱手なら成功すると思っていたわ」



綱「せつな・・」



主「私はあなたの医療技術が見たかったから手術室に入ったの。あの子を助けたかったわけじゃないわ」



綱「ふふっ、そうかい」



主「何が可笑しいの?」



綱「いや、別に」






綱手はニヤけてしまった。誉められたからではなく、せつなが必死に眉間にシワを寄せて照れ臭いのを我慢していたからだ。そして手術を振り返った。手術開始直前、せつなが手術着に身を包んで現れた。他のスタッフは狼狽えていたが、いざ始まると彼女の技術に圧倒された。その時のせつなの表情は真剣そのもの。





綱(あれは絶対に治してやる、って表情だったよ)



主「この里の医療が学べて楽しかったわ」



綱「どうだった、私の腕は?」



主「まぁまぁ」



綱「はっはっはっ!そうかいそうかい!」






せつなが少し心を開いたのか、意地悪そうに笑った。綱手は膝をばしばし叩いて笑った。確かに綱手がメインで執刀したが、せつなのフォローで成功率は格段に上がった。壊死寸前の神経を自己治癒できるところまで回復させて見せた。綱手は“せつなは自分以上の医療技術を持つ”と察した。とても嬉しかった。






綱(もっと医術を学びたいと思ったのは、いつ以来だったかね・・)



主「それよりこの件を他の人には・・」



綱「ああ、今回のお前の関与を知ってるのは私とシズネくらいだよ。諸事情があるんだろ」



主「そうなの。お願いね」



綱「大変だね。“天使”っていうのは」





その話になると、シズネはそそくさと窓際に行き背を向けた。聞いてないフリをした。






綱「人間界への影響を考慮しないといけないとは。そのせいで最初手術を渋ってたんだろ。厄介なルールだねぇ」



主「そうなのι」






せつなはため息をつくと、続けて“ガイが”と呟いた。しかしすぐ口をつぐんだ。また眉間にシワを寄せていた。怒ってるようにも見えるが、違う。綱手は彼女の胸のうちを察した。






綱「だいぶ頼み込まれたらしいな」



主「断ったけどね」



綱「でもアイツ、しつこかったろ?」



―――頼む、優秀な医者なんだろ!?リーの人生がかかっているんだ!



主(すごい必死だったな)



綱「どうして考えが変わったのかい?」



主「んー・・」






綱手はガイの勢いに負けたのだろうと思っていた。しかし少し違った。今度はせつなが記憶を振り返った。綱手が里に戻ってきた日のこと。綱手がリーとガイに手術の成功率を話していたとき、せつなは病室の外で聞いてしまった。




主(止まらなきゃ良かった)





ガイとリーが現実を受け止めきれていなかった。それがどうにも放っておけず、せつなは2人の後を尾行した。ガイは強いと聞いていたのでバレるかと思ったが、彼にそんな余裕はなかった。でも、あの力強いセリフは印象に強く残った。






―――お前を1人前の忍びにすることが、オレの忍道だ!



主(あの言葉に動かされたんだろうなぁ・・)






せつなは天井を見上げた。あれからガイのことが頭から離れない。喜んでくれてたらいいな。綱手は何かを察して口元が緩んだ。






綱「まぁいい。今日呼んだのは別の件だよ」



主「え、そうなの?」



綱「シズネ、例のものを」



シ「はい」






すると待っていたかのように、シズネがささっと動いた。せつなの前の机に何かを置いた。
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