小説

□チョコレート
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2月といえば、日本では1958年頃から流行したあの日。
そう、バレンタインデー。
その日が明日となった日、月子は錫也に
チョコの作り方を教えてもらっていた。

「ねぇ、月子。“生チョコ”作るって言って
たよね」
「うん、そうだけど……なんで?」
「その手に持っているのはなにかな?」
「チョコが入っている鍋だよ。溶かさない
といけないでしょ」

そして、月子はコンロに鍋をおいて火をつ
けようとした。

「ストップ。月子『湯せん』の意味わかっ
てる?さっき言ったよね」
「チョコ溶かすことじゃないの?」

錫也はため息をついた。月子が料理下手な
ことは知っていたが、ここまでとは思って
いなかったからだ。

「『湯せん』はチョコ作りのきほんだよ。
これがしっかりできなきゃ何も作れない。
もう一度教えるから次はちゃんとできる
ようにしてね」
「うん。私、頑張るね」

チョコ作り開始から10分ほどで錫也は無事
完成するかどうか心配になっていた。
砂糖と塩を間違えたり、生クリームをいれるところに牛乳をいれそうになるなど
色々なことがおこりチョコレートが完成する
頃には錫也はぐったりしていた。

「やったぁ、完成!ありがとう錫也」
「どういたしまして。ラッピングは自分で
できるよね。あっ、そういえば味見はした?」
「忘れてた。……ん、美味しい!錫也も食べる?」
「じゃぁ少し……美味い」
「本当にありがとう。さーてラッピング」

錫也は驚いた。今日だけでチョコレートを
いくつも犠牲にしたあの月子が、こんなにも
うまく作れると思っていなかった。少し感動
してしまった。それと同時にあのチョコレー
トは自分のためには作られていない、哀しみ
が込み上げる。そんなことを思っている間に
ラッピングを終えた月子が錫也の前に来た。

「どうかな?」
「きれいにできてる。自信を持って渡せよ。
きっと大丈夫」
「ありがとう。あと、これ」

そう言って月子は可愛くラッピングされた
小さな箱を錫也に渡した。

「これは?」
「今日のお礼。いつもありがとう」

月子の明るい笑顔に錫也はどこか悲しげな
笑顔をかえした。


(この気持ちは伝えられない)

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