Dream3

□季節待ち
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夕方の5時なんてついこの間まで真昼のようだったのに、今日は西の空が少し明るいくらいだ。月日が経つのは本当に早い。
この前、彼に会ったのはいつだったろうか。それこそ同じ時刻でも日の高かった季節だ。そう考えると、ずいぶん昔のことのようでもある。月日はゆっくりとしか流れない。

右隣に目を向ければ、アデクさんの燃えるような赤い髪が揺れていた。わたしはいつも、それを見ては山に色づく紅葉を思い浮かべる。


「寒くはないか」


冷たい風がわたしたちの間を通り抜けて、枯れ葉をカサカサ鳴らしていった。わたしは、はい、とだけ小さく答えた。情景だとか空気とかとは裏腹に、わたしの気分は穏やかだ。


「秋も深まってきたな…シキジカの毛色もすっかり変わった」

「そうですね。空気も澄んで…わたし、秋って好きです」

「君は、夏にも同じようなことを言っていたな」

「ええ、夏も好きです」

「まぁよい。何事も、嫌うより好いた方が前向きだ」


アデクさんはわたしの見たことのないものをたくさん見ていて、色んなことを知っている。前に、強さを求める少年や、自分の弱さと向き合う少女、それから、ただひたすらに突き進むトレーナーの話をしてくれたときがあった。わたしは彼らを行き当たりばったりだと非難したが、アデクさんはそれは違うと言った。事情を知りもしないわたしより、人をよく見ているアデクさんのほうが正しいに決まっているのだから、どんな話でも素直に聞き入れるしかない。
わたしのことも、いつか誰かに話すのだろうか。


「しかし、季節や景色は変わっても、場所というものは変わらんな。
ここは―いや、君のいる町は、とても落ち着くよ」

「わたしは…アデクさんがいらっしゃると落ち着きませんけどね」

「それはまた、何ともつれないことだ!」


星の瞬く空に響いた笑い声。張り詰めた空気はそれを吸い込むようにして、やわらかなものへと変わっていく。肌で耳で感じるたび、わたしは胸が苦しくなるのだ。


「だってアデクさん、いつも違う話を聞かせてくれるから。新しい何かにふれるのってどきどきするでしょう?」

「なるほど。―ああ、確かに」


日が沈んだ。ドーム型の蓋をされたみたいに、町はまぁるく闇に包まれる。天体に詳しくない人間にとって、オリオン座はまさに希望の星だ。


「また、来て下さいね」

「ああ」


わたしもアデクさんも、約束なんて言葉を口にしたことはない。それでも、またすぐに会える。わたしはそう信じている。

次の日の朝、彼は町にはいなかった。まだ花壇に霜は降りていないけれど、冬の訪れはもう近い。
かじかむ手を温めながら、わたしはホット・ミルクをすすった。

















いつになればアデクさんと観覧車に乗れるんですかね←



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