Dream3

□0と1を隔てる壁
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世界は廃れていて、海は荒れている。刺激を求める人たちにとっては、いま船旅をすることなど正に極楽巡りだろう。しかし、わたしはただスリル、言い換えれば危険に曝されることだけを楽しむなんてまっぴらごめんだった。できることなら平和的で、尚且つ自分が人間であることを幸福に思えるような瞬間にめぐり会いたい。こんな時世だからこそ。
そう、例えば興味を引かれる人やモノに出会ったり、そこから見聞を広めたり―

この行動も本来は自殺行為である。けれども、わたしたちに対し彼は友好的だ、と判断した時点でその考えは叩き壊した。


「…そろそろ離れてはくれんか」

「ごめんなさい。もう少し、このままで」


肩書きで人を測るような真似はしたくない。だからといってその人の一つの面を理解せずにいてもいい理由にはならない。


「しかしお前さん、さっきからそう言っておるが…ずっとこうしているわけにもいかんじゃろう」

「本当に、あと少しだけですから」


王下七武海の称号。政府すらも認める大海賊の証。それを与えられた者に、わたしは今ふれている。
簡単に状況を説明すると、目の前には橙色の和服と紫の帯。壁に頭をぶつけるような姿勢で、わたしはジンベエさんに正面から張り付いているのだ。
時折、行き場を無くした彼の手が頭や肩をかすめる。それが少しくすぐったかった。


「あと少し、ですから」


困るジンベエさんを無視するかのように、また同じ言葉を繰り返す。
わたしは自ら海賊だと名乗れるほど海で好き勝手してきてはいないが、同じ時代同じ場所に存在するものとして、彼を敬う。そして、今「この瞬間」は特別なのだという一種の感動。手放すのは惜しかった。少しでも長く繋ぎ止めておきたかった。
忘れてしまっては意味がないのだから。


「ジンベエさん」

「…?」


それと、大事なことがもう一点。人間は、たとえ真実であっても独りでは何一つとして信じることなどできはしない。


「明日から、わたしがこうしていたことを全く思い出させないような日々が始まって、それがしばらく続いたとしても、今のこの記憶は無くならないと思いますか?」

「ふむ…」


顔を俯かせたままのわたしは、声でしか伝えられず、耳でしか受け取れなかった。それでも、自分勝手なこの感情にはコミュニケーション手段として十分すぎる。
わたしが忘れたくないからと、それを相手にも強要するだなんて。気持ちを掻き乱してしまって当然だ。


「すみません、変なことをお聞きして」

「いや、構わん。それよりも、失礼な言い方じゃが―こんな珍妙な娘さん、忘れろという方が難しい」

「…え」


申し訳なさを感じて思わず謝ったのだけれど、返事は予想外のものだった。


「顔は覚えていられそうにないがのう。こう、ずっと押しつけられたままでは」


思いがけない成り行きに、どうしようもないくらい嬉しくなる。―と同時に、自分のしていたことが恥ずかしくなった。頬が熱い。

早くなった鼓動を落ち着かせるよう、ゆっくりと息をして。それから、ゆっくりと顔を上げる。高いところにあるふたつの瞳は、やさしい色をしていた。

どんなに波が荒れたとしても、わたしは海を嫌いになれそうもない。
















どの話にも言えるんだけど時間軸がまじで謎



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