Dream3

□sparkling Wednesday
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偶然なんて結局は必然だ。
―それは文学だとか哲学だとか、そんな小難しい思想から出た言葉じゃない。実際にわたしの周りに転がる「偶然」が偶然ではなくて意図的に作られた結果だったという、ただそれだけのこと。
当たり前ながら、わたしがこう考える原因である彼も同じように思わざるをえないだろう。


「あれ、奇遇だね」


水曜日の昼休み、わたしは職場である博物館を出てカフェ ソーコ≠ナ食事する。不思議なことに、席に着くときのわたしは「お一人様」なのにオーダーが済むとそうではなくなっているのだ。ここでの食事が毎週水曜。フシギなデキゴトも毎週水曜。これを偶然だと思える人間がいたら尊敬する。


「えぇ、そうですね…
また創作に行き詰まったんですか、アーティさん」

「んー、そんなとこかな」


定期的にパワーオフとは、いつ芸術家からロボットに転職したんですか?そう付け足そうとしてやめた。
可愛い制服を着たウエイトレスがせわしなく歩き回る。なるほど、混んできたから相席とはいい口実だ。


「こういう、ちょっと俗っぽい場所だからこそ見つかるものもあるんだよ」

「はぁ」


わたしの気持ちに対して先回りするような話。これもいつものことだった。しかも、どんな皮肉めいた考えだってお見通しで、何気なく答えてしまう。けれど、わたしは自分が、いわゆる分かりやすいタイプだとは到底思えなかった。
だからもしかすると、どこか似ているのかもしれない。お互い。


「わたし、あまり芸術に明るくないので、そういう閃きとかイマイチよく分からなくて」

「んうん…教えてあげたいけど、口にできるものじゃないからね。こればっかりは」

「絵を見たってやっぱり分かりませんでしたよ」


以前、アーティさんの描いた作品を見せてもらったことがある。しかし、それは幾何学的な模様と鮮やかな色とが踊り狂っているような―世に言う抽象画で、およそ常人に理解できるものではなかった。
考え方と感性は似て非なるものだから、わたしとアーティさんのセンスが合致しないのも仕方がないことだ。
それでも、仕方ないとは分かっていても共有したい部分だってある。


「何かこう、写実的?には描かないんですか」


そして彼は、それを実現する方法を知っている。


「あー、そうそう。本当はどうしても描きたいモデルがいるんだよ。
でもね、彼女にもその気がないみたいだし、それにボクも思い通りに描ける自信がなくてさ。
で、またここに来ちゃって…堂々巡りしてるってわけ」


お待たせしました!というウエイトレスの愛想のいい声とともに、オーダーしたサンドウィッチが手元に届いた。
優越感とも焦燥感ともつかない気持ちが込み上げて、ゆるむ頬を必死に抑える。
サイコソーダの中でパチパチいって消えていく泡。


「ふふ、なんだか少し羨ましいです。アーティさんにそんな風に想ってもらえる女の子が」


おどけた調子で言えば、にこやかな笑みが向けられた。


「それはどうも、ありがと」


カタ、と椅子を小さく鳴らしてアーティさんは立ち上がった。赤いストールをふわり、揺らしてわたしの方に歩み寄る。


「きみと話してると絵の具の匂いが恋しくなるよ」


またね、そう言ってわたしの髪をひと撫でしてドアをくぐった。ベルの音と扉の閉まる音を背中で聞いた後、水滴だらけになったグラスからソーダをひとくち。甘くてさわやかな味がした。

…彼女のほうも、もっと素敵にならなくちゃ。

水曜日限定、なんて進展するはずがないけれど、その緩やかなスピードが好きだった。
必然的に、思うところはいつも同じなんだわ。わたしも、彼も。

















アーティさんがイケメンすぎて、ヒウンで若干詰みました。



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