Dream3

□異文化交流のすゝめ
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例えば、鏡に映るわたしと写真の中の自分が別人に見えるように。身体に響く声とやまびこが別の音に聞こえるように。“自意識”と他人のフィルターを通したわたしとでは全く違う存在なのだろう。


「お寿司が食べたい」

「何故わしを見ながら言った?」


脈絡のないわたしの言葉に対し、返ってきたのは当然の反応だった。


「和服を着た、魚…連想するに決まってるじゃありませんか」

「お前さんの考えはわからん。―それもおかしなことではなかろう」


全くもって正論である。ヒトの頭の中には絶対なんてものはない。しかしだからこそ、誰かの傍にいなければならないのも確かだ。
そしてそれを建前に、一人では答えを出せずにいた疑問に決着をつけようと思う。


「ご理解いただけないことを承知でお訊ねします。
ジンベエさんって、食べられますか?」

「…共食いという言葉を知らんのか」


おぞましいものでも見るかのような目つきは大物らしくない。砕けた言い方をすれば、ドン引きされた。半ば冗談だというのに真に受けられるのは辛いものがある。


「やだなー、もちろん知ってますよ。本当に食べようとするわけないじゃないですか。ただね、わたしはヒトと魚人との種の差に興味があるんです」

「誰が何に関心を持とうとわしは口を出さんが…。あまり突飛なことはせんでくれ。ついていかれんようになるわい」


こういうところはさすがに寛容だ。しかも優しい。今のだって一歩間違えれば差別と取られてもおかしくはなかったのに。暴走しがちなわたしを見捨てるでもなく、軽蔑するでもなく、正面から受け止めてくれる。伊達に体が大きいわけじゃない。


「以後気をつけます。
―しかし、種の差といえばその概念はつがいが成り立つかどうかであって、ヒトと魚人の間での生殖が可能である以上生物の種として明確な違いは―」

「言っとるそばからわしを置いていくな。それと、年頃の娘があまりそういうことを言うモンじゃァない」

「あ。…失礼しました」


またこうして、父親のように諭してくれる。むしろ、ジンベエさんであるがゆえにわたしは安心しきって勝手な振る舞いをしてしまうのかもしれない。


「でもそれだってジンベエさんには伝わらないし、逆にどう思われてるかなんて教えてほしくもないのよね、なんかね」

「なんじゃ、また何か…」

「んー、ただの独り言ですよ」


立場も価値観も思想も、まず人種から異なっているわたしたち。相違点とはつまり手がかりなのだ。世界にただ一人、ちっぽけな自分の姿を知るための。


「わたし、意見の合わない人って好きです。面白いと思いません?」

「それはまた、残念じゃったのう」

「どうして」


頭にかかる重量。大きな手が乗せられて、物珍しさについ水掻きに触れた。指の付け根を撫でたら、くすぐったさもあってかジンベエさんの顔がほころんだ。


「今、共感してしもうた」


少し縮まった距離は嬉しかったけれど、近づきすぎたら何も見えない。焦点って、レンズだけじゃなくあらゆるものに定められているんだろうなぁ。想像したら見極めたくなった。それには何が必要なのか、考えてみる。

そして、巻き込んでごめんなさい、とわたしは心の中でこっそり謝るのだった。

















これ書いたの、真夏の真昼のマイルーム(ノーエアコン)です。
ジンベエさん涼しげだから…



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