Dream3

□説教じみた愛の形
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わたしにできることなんて限られている。時折、それがすごく悔しかった。
万能でありたいだなんて思うこと自体が傲りで、間違いだとすらいえるのだろうけれど。


「イナズマさんは、自分の能力に満足していますか?」


身体的には一般人であるわたしに比べれば、能力者である彼は少なからず多くのものを持っているはずだ。とはいえ、能力とともに制約が与えられるのが悪魔の実。リスクを抱えて生きる、その意味を知りたかった。


「深く考えたこともない。…しかし、何故そんなことを?」

「だって、イワさんのホルホルに比べたらハサミって応用しにくそうじゃないですか。血糖量の調整もできないし」

「例えに血糖値を用いる理由もわからないのだが」


そうだな、と考え込むように俯いたイナズマさんから先程発せられた言葉。今までさして気にしなかったというのは、つまり不満がないということ。
なんだかつまらない。何の解決にもならない挙げ句、わたしとの格の差を見せつけられたようだった。

ふいに、イナズマさんが立ち上がる。何事かと驚き、見ていれば彼は岩壁の表面を切り出した。鉱物が紙のように変わる瞬間。目の当たりにして、少し感動した。
ハサミの動きは止まらない。最初に切り取られたのは、三角形の互いの頂点を重ねて二つ並べたような形だった。立体であれば砂時計のようにも見える。


「これが何だか分かるか?」

「…オリオン座?」

「不正解」


次は、触角と羽とお尻の針が特徴的な虫の形をしていた。


「蜂?」

「正解」


その次は簡単。切っている途中で答えることができた。


「栗」


そして今度は、前足―いや腕というべきか、それを大きく広げた動物。あくまでシルエットだというのに、今にも動き出しそうな…


「さる!」

「ご名答」


蜂、栗、猿。共通点にはすぐに気付いた。すると最初の、平面では正体のわからなかったものも、おのずと答えは見えてくる。


「じゃあこれは、臼ですね?」

「そうだ」

「ああ…!懐かしい話」


子供の頃よく読んだ、昔話の絵本を思い出す。人生経験なんて、そもそも語句としてさえ理解できなかったまっさらな幼心。そこに自然と教訓を与えてくれるのが絵本だった。どこが面白いのか、と聞かれても返せないほどの未熟な子供でも大切なことは受け止められる。そうだ、これは遥か昔に忘れた気持ち。


「あれ、そういえば肝心のかには…」


わたしが言うと同時に、ハサミは再び動き出した。切り取られた岩が生命を形作る。


「イナズマさんは、創造主みたいですね。この動物たちの」

「そんなに高尚なものではない。単なる遊び心、とでも言っておこう」

「でも、わたしから見ればすごいことですよ」


生み出されたカニは秀逸だった。一枚の、紙ほどの厚みの石の板でしかないのに本当に泡でも出てきそうな感じ。思わず感嘆の声を上げてしまう。
しかし、それで終わりではなかった。作られたばかりのカニにもう一度ハサミがあてがわれる。


「私は」


チョキチョキ、とその名に違わぬ軽快な音を鳴らし、刃は二往復ほどで止まった。


「こうして、能力で君に何かを伝えることができる。そして、それを見て目を輝かせる君がいる。それだけで充分だ」


カニのお腹に空いた穴は、ハートの形をしていた。

能力者でなくても、何もできなくても、もうどうだっていいと思った。
自分でも呆れるくらい現金だけれど、こんなにおいしい思いをするなら、わたしはずっとこのままがいい。

さて、何か忘れている気もすることだし、あの昔話を今一度ふり返ってみよう。
イナズマさんからのメッセージを、素直な気持ちで受け取るためにも。

















遊び心と言いつつチョキチョキで芸術性を発揮するイナズマさんはきっと素敵です。芸術性…?



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