イナゴ 夢小説
□人生ゲーム
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霧野「それじゃあ人生ゲームをはじめるぞ!」
神童「俺の家土足なんだけど……じゅうたんの上にそのまま座ってやるのか……?」
浜野「こういうゲームは地べたに座ってやんなきゃダメっしょ!」
神童先輩の家にて。
僕たちはじゅうたんの上に座って、霧野先輩と浜野先輩が作ったという人生ゲームを取り囲んでいた。
手作りという割にはかなりクオリティが高く、制作期間も1か月という、手の込んだものだった。
マサキくんが「そんなことよりサッカーと勉強しろよ」ともっともなことを言っていたが、僕は普通に感心してしまった。
霧野「実は仕上げは浜野に頼んだから、俺もどんなマスがあるのか把握してないんだよな」
浜野「男子中学生らしく面白くしといたよー」
マサキくんが人生ゲームのマスを覗き込む。
狩屋「えっと……『右隣りの人にひざまくらをしてもらう』………って、は?」
マスを読み上げたマサキくんが固まった。
そんなマサキくんのことは気にせずに霧野先輩が笑う。
霧野「なんだ浜野、意外と健全だな」
浜野「あー、ソレはまあ健全なマスかな?」
狩屋「健全なのか!?コレ、本当に遊べるんだろうな!?」
狩屋くんが立ち上がって抗議していたが、先輩たちは笑顔でスルーしていた。
霧野「まぁそんなに騒がなくても、紅音は俺と神童の間だし安心だろ?」
狩屋「なんで安心なんだよ!どうみても左右が敵だろ!四面楚歌だろ!」
紅音「マサキくん、左右が敵なら四面じゃなくて二面なんじゃないかな?」
狩屋「うるさい黙れ!」
騒ぎながらも一通りの準備を終えた僕たちは、改めて人生ゲームに向き合った。
霧野「じゃあ神童。まずはそこのルーレットを回すんだ」
神童「ああ、わかった」
神童先輩がルーレットを回した。
音を立てて、ルーレットが綺麗に回った。
神童「……3だ。」
霧野「確か最初の方は『職業選択ゾーン』的なマスを作ったよな、浜野。」
浜野「そーそー、俺がちょっと変えといたけどねー」
狩屋「へぇ、それじゃあ割と本物の『人生ゲーム』っぽく作られてるんだな。」
狩屋くんが関心しながら最初の方のマスを見た。
狩屋「『ナースになることができる。この職業が気に入ったら職業カードを受け取って……』………。」
マサキくんが黙った。
黙った後、他の職業マスにぐいっと顔を寄せる。
狩屋「『メイドになることができる』………『女性教師になることができる』……『聖女になることができる』…………これって……」
霧野「お、もう気づいたのか、狩屋。」
霧野先輩が笑顔でそう言って、浜野先輩と目を合わせた。
浜野先輩はその視線を受けて立ち上がり、ソファの上に置いてあった紙袋を持ってきた。
浜野「そりゃっ!」
浜野先輩が紙袋から白い布を取り出した。
それは……ナース服だ。
狩屋「なっ……!!」
マサキくんが小さく声を発した。
霧野先輩はその反応に満足げにうなずく。
霧野「ふっ、この職業選択ゾーンはな……職業選択ゾーンという名の「コスプレお題決めゾーン」なんだっ!!」
浜野「この衣装、演劇部とか漫研から借りてきたんだよね」
霧野「一応職業選択ゾーンだし、女性の職業にしたんだよな!」
浜野先輩と霧野先輩がきゃっきゃと盛り上がっていた。
その間でマサキくんがげんなりとうなだれている。
紅音「それじゃあ神童先輩、3マス進みましょう!」
僕はルーレットを見つめている神童先輩に言う。
先輩は自分のコマをとって、3マス進めた。
神童「えっと……『霧野蘭丸になることができる』……ってかいてあるぞ」
紅音「ホントだー!神童先輩、霧野先輩になるんですか!」
霧野「……は?」
浜野先輩と盛り上がっていた霧野先輩が3マス目の文を目で追った。
霧野「『霧野蘭丸になることができる』……浜野、なんだよこれ!」
浜野「あー……ユニホーム持ってきてって頼んだっしょ?」
狩屋「ちょっ、霧野先輩って「女性の職業」だったんですね!」
マサキくんがとても生き生きとした目で霧野先輩に笑いかけた。
狩屋「女性の職業・霧野蘭丸」
霧野「かりやっ……!おまえいつか見てろよっ……!」
狩屋「悪いのはオレじゃないですよ、センパイ」
霧野先輩とマサキくんが再び睨み合う。
浜野「じゃあ着替えは全員の職業が決まってからやるとして……次はオレの番ね!」
浜野先輩がそう言ってルーレットに手をかけた。
ルーレットは4を指す。
浜野「いち、に、さん、よん……っと!ナニナニ『女医になることができる』……おっ、給料いいやつじゃん!」
浜野先輩は嬉しそうに職業カードを取った。
浜野先輩が女医……想像がつかない。
霧野「じゃあ次は狩屋だ!目も当てられないようなひどいマスに当たるといいな!」
霧野先輩がマサキくんの肩をぽんと叩いた。
マサキくんはその手を振り払って、ルーレットを回す。
出た数字は2だった。
狩屋「よかった、3じゃなくて。」
霧野「おい、どういうイミだ!」
マサキくんがコマを進める。
狩屋「『女子中学生になることができる』」
紅音「……それって、職業なのかな?お金稼げない年齢だよね……?」
浜野「いや、女子中学生はこの中で一番給料いいんだよ」
紅音「? なんでですか?」
浜野「えー、だってそれは援助交s」
霧野「よし!!次は俺の番だな!!」
霧野先輩が不自然な大声でそう言って、ルーレットを回した。
数分後。
狩屋「――っ……!!くっ……!」
霧野「笑うな狩屋っ……!!」
腹を抱えながら、雷門中の女子制服を着たマサキくんが笑っていた。
ナース服を身につけた霧野先輩は顔を赤くしながら怒る。
だが、その姿は可愛らしく、失礼だが先輩の威厳とか迫力というものは見られなかった。
神童「まあ、似合ってるからいいんじゃないか?そのナース服。」
霧野「よくないだろ!?むしろその「似合ってる」ってのが問題なんだろ!」
浜野「ホント、霧野は髪ほどいたら女だよね」
霧野先輩は二つに結んでいた髪をほどいていた。
男か女かわからない、というかどう見ても女の人にしか見えなかった。
言ったら怒られるので、何も言わないけど。
霧野「神童はいいよな。いつもの雷門ユニだし」
口をとがらせるナース服姿の霧野先輩。
一方の神童先輩は霧野先輩のユニホームを着ていた。
黄色のユニホームは、確かにいつも選手たちが着ているものだ。
だが、神童先輩はどこか緊張した面持ちだった。
神童「いや、自分が霧野の「3」を背負ってると考えると、なんだか落ち着かなくって……」
霧野「ただのコスプレだからそこまで深く考えなくていいと思うぞ!?」
神童「それに、髪の毛が……」
霧野先輩の代わりに、神童先輩が髪を二つに結んでいた。
職業が「霧野蘭丸」なので、二つ結びは必然なのだそうだ。
紅音「神童先輩似合ってますよ!かわいいです!」
神童「そ、そうか……?」
ふわふわの髪をゆるく二つに結んだ神童先輩は、全体的にふんわりとしていて可愛らしかった。
だがどこか高貴な雰囲気が漂っていて、お嬢さまという言葉がしっくりくる。
神童先輩は少し照れくさそうに髪を触った。
そのしぐさが何ともかわいかった。
霧野「浜野もいいよな、白衣の中さえ見えなきゃただの教授だしな」
浜野「いいっしょ!」
にこにこと浜野先輩が笑った。
浜野「中はタイトなスカートだけどねー!」
着替え終わった僕たちは再び人生ゲームの周りに座った。
右にはナース服を着た霧野先輩。
左には髪を二つに結わいた神童先輩。
紅音「ちょっと……ドキドキします……」
霧野「っ……それは、俺のセリフだ!!!」
顔を真っ赤にした霧野先輩が僕の方を向いた。
が、目が合うと、すぐに目を逸らされてしまう。
さっきからずっとこうなのだった。
紅音「きりのせんぱい……?」
霧野「うわぁっ!し、下から覗き込むな!!襲うぞ!」
神童「落ち着け霧野……」
飛びのいた霧野先輩を見て、神童先輩が苦笑いをした。
霧野「で、でも、紅音のメイド服姿が……もう………どうしよう。」
神童「とりあえず深呼吸しようか」
神童先輩に言われて、霧野先輩は大きく深呼吸した。
ふぅ、と息を吐き出した霧野先輩は、うつろな目で口をあけた。
霧野「だって、普段ジャージで隠れている紅音のふとももが絶対領域でちらちら見えてたりするのに落ち着けるわけないだろ。それにとことん女っぽいんならまだ女として見ればいいんだろうけど、ちょっとしたところに少年っぽさが見え隠れしていてどうすればいいんだろう。紅音にこんな恰好をさせてる背徳感とか、心の奥からあふれ出てくる自分の欲求とかでもうおかしくなりそうだ……」
狩屋「そんなこと言われたら意識するだろ!見ないようにしてるのに……!」
マサキくんが僕をちらりとみた。
そしてすぐに目をそらす。
紅音「ま、マサキく……」
狩屋「呼ぶなっ!!」
霧野「狩屋、悶え苦しむがいいさ。どうして紅音は男なんだろう、と。……いや、紅音は男だからこそいいんだ。そう考えるとどうして俺は男なんだろう。もういっそ俺って女でもいいんじゃないのか。なんかだんだん女な気がしてきた。見た目的にもアレだしさ。」
神童「大変だ!霧野が自分の性別を見失い始めたぞ!!」
一定の音程でしゃべり続ける霧野先輩。
神童先輩が霧野先輩のそばに寄って肩を揺らす。
神童「おい、霧野!大丈夫かっ!」
浜野「ちゅーか、紅音はそれ脱いだ方がいいんじゃね?」
紅音「そ、そうですかね……?」
床を叩くマサキくんとうつろな目をした霧野先輩を見て、僕は着替えることに決めた。
雷門中の制服に戻った僕は職業カード「メイド」を手放し、晴れて無職となった。
紅音「人生って厳しいですね……あれよあれよと無職に………これが人生ですか……」
霧野「ご、ごめん紅音。あのままだと俺がリアルで廃人になるところだったから……」
紅音「いえっ!これでこそ人生!僕は強く生きていきます!!」
霧野「紅音………!」
霧野先輩が優しい瞳で僕を見つめた。
その姿はまさに白衣の天使と呼ぶにふさわしかった。