新作部屋

□摂政様のお戯れ
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「そうか、ならばよい。ところで妹子、頼みがあるのだが」


「はい?」


「接吻してくれないか?」


「せ、せっ、接吻って、キスですか!?」


「他に何があるのだ?」


「あ、ありませんけど、僕からは…ええと…」


「恥ずかしくてできないのか?いつまで経っても初な奴だな、いい加減慣れろ」


「そんなこと言ったって…」


あああ、言ってる間に目閉じちゃったよこの人!絶対僕が嫌だと言ったら摂政命令発動するよ!これそういうパターンだよ!


ええい、僕も男だ!好きな人にキスのひとつやふたつできなくてどうする!


そろそろと顔を近づけ、唇が震えているのを悟られないか祈りながら口づけた。恋人になってから何十回、何百回としてきたキスだけど、やっぱり僕からするのは何度しても慣れそうにない。今だってもう、心臓が破裂しそうに痛い。


太子が離れようとしないので、僕が腰を引いたら逆に抱きすくめられ、口づけが深くなる。舌こそ入らないものの、角度を変えたり唇を食まれたりやりたい放題。結局僕は太子に振り回されて終わる。


「…ん、やはり妹子の唇は甘いな」


「あ、あま、甘いって…」


「お前は甘くないのか?それとも塩辛いのか?」


「甘い…と言われたら、そうかもしれませんが」


真面目に答えてみたが、いかんせんこっぱずかしい。さっきから心臓は全然落ち着かないし、顔は火照って熱いし散々だ。


「……ふっ」


「太子?」


「あっはははは、もうダメだ、妹子が可愛すぎるよ、ふふ、はははっ」


急に笑いだした太子に驚いて呆気に取られた。澄ました顔が一気にバカ笑いに変わり、心でほっと安堵の息を吐いた。


「あ、アンタ…もしかしてからかってたんですか!?」


「うん、ごめん、ちょっと出来心でさ。それにしても…ははっ、私の一言にいちいち反応して可愛いったら」


こ、こ、こ、この野郎!!始めっから僕をからかうつもりで呼んだんだな!正装を着替えなかったのはそのためかチクショウ!まんまとはめられた!


「何考えてんだこのアホ!僕の緊張を返せ!」


「ごめんって、マジで」


「許すかボケ!」


「あれ、もしかして普段の私が恋しかった?」


「そんなわけあるか!意地悪するアンタとは口をききたくありません!」


図星を突かれ、反射的に憎まれ口を叩いてそっぽを向いた。


「妹子、機嫌直せって。な?」


そんな猫撫で声に騙されてたまるか。どうせまた僕をからかって遊ぶくせに。


「ねー、妹子ぉ…」


絶対絆されないぞ、アンタの思い通りになると思うな!


「もうしないからさぁ、こっち向いてよ。ね、ね、お願い。一生のお願い」


嘘つけ、アンタ一生のお願いってよく使うだろ。しかもしょうもないことにばっかり使って、大人なのに恥ずかしくないんですか?


「言うこと聞かないと変なことするぞ」


首筋に太子の吐息が当たって、逃げようとしたがもう遅い。ゆっくりと舐め上げられて背筋がぶるりと震えた。


「ちょっ、太子…っ!」


「ふふ、やっとこっち見た」


茹で蛸状態になった僕を見て艶やかに笑う太子。しゃらしゃらと首飾りが揺れる。


(ずるい、さっきのアンタより、ずっとこっちの方が)


僕の心臓を跳ねさせてやまないんだ。きっと僕はアンタに一生敵うはずがなくて、それはアンタも同じだろう。


遠くの方で休憩の終わりを告げる鐘が鳴っていたが、目の前の太子は未だ満足していないようだった。


「まだ帰さないからね、妹子」


そしてまた、僕は呼吸を奪われる。

→あとがき
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