新作部屋

□シアワセひとつぶ
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※「愛してると唱えたら」の続きです

…なんだかやたらふかふかした布団に寝てる気がする。ていうか身動きとれないし、なんだこれ…。でもあったかい…。


「……ん?」


目を開けてみればどうしたことか、すっ裸の太子が視界を占領していた。


「ぎゃあああ!!」


「…なんだよ妹子、おもらしでもしたのか?」


「んなわけあるか!ていうか太子、あの…!」


「え?お前覚えてないのか?昨日私の部屋に押し掛けてきて、そのままヤって寝ただろ」


そ、そ、そうだった。手を出してこないことに業を煮やした僕が誘ったんだっけ…!


「う、うわあああ…恥ずかしい…穴があったら入りたい…」


「お前の格好の方が恥ずかしいと思うけど」


「いやあああ!!」


「ぜっぺき!」


僕も裸だということに今さら気づき、太子の顔を右ストレートで吹っ飛ばした。み、見られた!ぺったんこの胸、見られたあああ!!


着る物がないかと辺りを見回すと、脱がされたはずのジャージや下着類が丸ごとなくなっていた。


「ふ…服がない…」


「あー、それなら回収されて洗濯されてると思うぞ」


「失礼いたします」


「ひええ!」


裸を見られたくなくて、思わず太子に抱きついた。その太子は「控えめな感触が」とか抜かしたのでビンタしてやった。


「あらあら、朝から仲良しさんですわね。妹子様の着替えを持ってきましたので、朝食を運ぶ前に済ませてください」


女官は微笑ましそうに服を置くと、そそくさと部屋を出ていった。僕は掛け布団を身体に巻き、服を手に取って広げてみた。


「…太子、むこう向いててくださいよ」


「はーい」


ご丁寧に添えられたさらしを巻き、さっさと身支度をする。明らかに服は質が良く、僕が着てしまってもいいんだろうかと思う。


「もういいですよ」


振り向いた瞬間、見えたのは太子のイチモツ。


「いや―――!!」


僕の悲鳴が早朝の朝廷に木霊した。



「…ごめんって、マジで」


「死ね」


「うわぁついに敬語が外れたよこの子!」


無駄に豪華な朝食を咀嚼しながら、僕は太子をぎろりと睨みつけた。事故とはいえ、あんな…あんなものを見てしまったなんて…!昨日は暗かったからいいものを、今回はくっきりはっきり目撃したのだ、動揺しない方がおかしい。


「うう…昨日は愛を確かめ合った仲なのに…心も身体も結ばれたはずなのに…」


その一言で昨日の出来事を思い出してしまい、ぼんっと音を立てて顔中が赤くなった。


「だ、黙れ!」


「あれ?思い出しちゃった?」


「うっさいご飯食べてください!」


一喝して恥ずかしさを誤魔化すようにごはんをかき込んだ。箸を置いて出廷すべく腰を上げると、控えていた女官が僕に絆創膏を差し出してきた。


「隠しておいた方がよろしいですよ」


「え?」


「首の痕、です」


「!!」


「ふふ、貼っておきますね」


「すみません本当にごめんなさい…」


生暖かい視線の女官に見送られ、僕は太子の部屋を後にしたのだった。



今日も忙しい一日だった。同僚や部下に何回か首の絆創膏の理由を尋ねられたりからかわれたりして、言い訳を作るのに妙に疲れた。


ちら、と時計を仰ぎ見れば夜の七時前。すっかり日も落ちて、曇り空では月明かりも期待できそうにない。こんな夜は女性の身としては不安に感じてしまう。


(…嫌だなぁ)


もしも得体の知れない輩に狙われたらどうしようとか、そんなことを想像して身震いした。


(僕が男だったら、こんな心配しなくていいんだけど)


ガラリ、と音を立てて戸が開かれて、僕は驚いて身体をびくつかせた。


「…っ!」


「あ、まだ残ってたのか、妹子。ごめんな、驚かせちゃった?」


「…い、いえ、大丈夫です」


「そう?仕事もう終わるのか?」


「さっき終わりましたけど」


「じゃあ、帰ろっか」


「あ、はい…」


もしかして迎えに来てくれたのかな。だとしたら、ちょっとだけ嬉しいかも。


明かりを持った太子と並んで手を繋ぎ、雲が掛かった夜空の下を歩く。今が暗くて良かった、赤くなった顔を見られずにすむから。


そういえば、と思い至る。今まで一緒に歩いてきて太子と距離が開いたのは隋で体調を崩した時だけだと。さりげない太子の優しさに気がついて、無性に照れくさくなった。


(今思えば、好きになるのも当然かも…)


そっと手に力を込める。すると優しく握り返してきて、嬉しさで口元が緩んだ。


僕も太子も、何も言わない。だけど不思議とこの沈黙は心地よくて、ちっとも気まずくなかった。


(ねぇ、太子。僕、今割と幸せなんですよ。貴方は僕といて幸せになっていますか?)


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