旧作部屋@
□手繋ぎ帰り道
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すっかり冷え込んだ夜、ようやく残業から解放されて外に出た途端容赦なく寒さが襲ってきて、僕はぶるりと身体を震わせた。
「さむ…」
今日は寝坊してうっかり防寒具を家に置いてきてしまったからそのままの格好で帰るしかない。寒がりにはきついけど早足で帰れば問題ないだろう。
「いーもーこっ!」
白く凍る息を吐きながら歩き出すと、不意に後ろから抱きすくめられた。
「うわっ、太子!?」
びっくりした…色んな意味で心臓に悪いことするなこの人は。
「今帰るの?」
「そうですけど」
「私も妹子の家行く!」
「えぇ…泊まる気ですか」
「いいじゃん別に、私と妹子の仲だろー」
「はいはい、分かりましたよ」
「妹子、そんな格好じゃ寒いだろ。私のマフラー貸してあげる」
「え、でも太子が…」
「いいよ、妹子の方が寒がりなんだから」
太子は僕を離して向かい合ってマフラーをほどき、僕の首にぐるぐる巻きにした。白いマフラーは太子の体温が移ってほんのり温かい。
「どう、あったかい?」
「…なんかカレー臭いです。ちゃんと洗濯してるんですかこのマフラー」
「してるよ!ていうか私はハーブの香りだ!」
本当は嬉しいんだけど、素直じゃないせいかつい可愛くないことを言ってしまう。別に太子のにおいなんてどうってことないのに。
「…まあいいや、帰ろ」
至って自然に手を繋いでくる太子。その手は鳥肌が立つほど冷たかった。
「太子、手氷みたいに冷たいんですけど」
「お前だって冷たいだろ。あ、そうだ。こうすればあったかいぞ」
太子は繋いだ手をジャージのポケットに突っ込んだ。その行動に一気に顔が赤くなる。
「た、太子…!」
「なに、恥ずかしいの?心配しなくても夜だから誰にも見られないよ」
太子は悪戯っぽい笑顔を浮かべ、僕たちは月明かりに照らされた道を確かな足取りで歩く。
歩いているうちにポケットの中の手はいつの間にか温まっていた。そっと太子の手を握ると、少し強く握り返してくれた。胸にじわりと温かい感情が滲む。
家は歩いて十分の距離だからすぐに着いてしまう。
もっと、手を繋いでいたいな……なんて。でも恥ずかしいから絶対に言わない。
太子もそう思ってくれてたらいいな。
なんてことない帰り道も、貴方と一緒なら幸せ。
→あとがき