旧作部屋@

□ちょっと休憩
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山積みの書類と格闘し始めてからどのくらい経っただろう。時計は2時半過ぎを指している。


終わりが一向に見えず、妹子は苛々して無意識に眉間にシワを寄せた。


「あ…」


また書き損じた。


ため息をついて書類を乱暴に丸め、ゴミと化したそれを後ろに放り投げた。これで七つ目、前との間隔が短くなった。


(またやり直し…)


朝いきなり書類を押しつけてきた事あるごとに自分につっかかってくる上司に舌打ちし、気を取り直して再び筆を進める。


書類の山は一つ減ったが、まだ二つもあるのだ。おまけに自分の仕事も抱えている。だが妹子は他人に頼ろうとはせず、たった一人で膨大な量をこなそうとしていた。それが彼にとっての「当たり前」なのだ。


(…ああもう、うんざりだ)


二回目のため息をつくと、不意に扉が開けられた。


「妹子!」


「…何の用ですか太子」


「うお…お前ひどい顔してるぞ。休憩してないのか?」


「する暇があったら仕事します」


「そんなんじゃ効率悪いぞ、ちょっとでいいから休め」


「でも…」


「でもじゃないっ!妹子は無理しすぎなんだ、倒れたらどうする!」


「…っ」


太子の真剣な口調に妹子は何も言えなくなった。心配をかけてしまったのが恥ずかしくて、視線を下に落とした。


「私の部屋でお茶飲も、な?」


「はぁ…しょうがないですね」

*

結局断り切れずに、私室へ招かれた。やたらと広い部屋の真ん中に妹子は正座した。


「ちょっと待ってて、今とっておきのお茶とお菓子用意してくるから」


「え、それは僕が…」


「いいからお前は座ってろ。上司が部下を気遣うのは当然だからな」


「…分かりましたよ」


(太子に心配されるなんて、なんだかむず痒い。そんなに僕無理してたのかな)


何もすることがなくなった妹子は意味もなく部屋のあちこちに視線を巡らせた。


いつ来ても身分の違いを思い知らされる部屋だ。置いてあるのは各地から贈られた献上品や、誰が見ても高級品だと分かるものばかりである。


本来なら妹子はこの部屋に踏み入ることは禁じられているのだが、太子と親しいので特別に許されているのだ。


しかし、そんな彼を面白く思っていない輩も多い。現に嫌がらせで回された仕事をやらされているうえに、陰では妬みだとか罵りの言葉も囁かれている。


今の自分の現状を考えると、頭痛がしてくる。
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